拙書「病気の9割を寄せつけない たった一つの習慣」のあとがきにも記述しましたが、私は父親の代を引き継いだ、中城歯科医院の2代目院長です。歯科医師免許を取って、大学院を卒業してから、20年以上、同じ職場で仕事をしてきました。私の同級生の歯科医師の中には、せっかく親子で一緒に仕事を始めたのに、やがて、空中分解して、別々の医院に分かれた話をよく聞きます。
しかしながら、私たち親子には、そんな衝突はなく、お互いの独自性を尊重し、仲良く職場を共にしていました。そんな父親も、鬼籍に入って今年で15年になります。当時から、当院を贔屓にして頂いた患者さんも徐々に少なくなってきました。
私は、父親が存命の時に鍼灸師の資格を有し、漢方処方で口臭治療を実践している事から、どちらかと言うと、歯科領域の中でも、より内科的な部分が多い方です。一方、父親は外科畑で、歯科インプラントを専門にしていました。
先日、このような症例に遭遇しました。今回は、患者さんからの了解を経た上で、お伝えしたいと思います。
もう25年以上、患者さんのお口の中で機能していた人工歯根のインプラントが、役目を終えて、やむを得ずお口から除去するケースになりました。麻酔をして、支えを失ったインプラント体を除去しました。当時のインプラントは、現在のようなネジタイプではなくて、板状のブレードタイプが主流で、隣在歯と結び合う事で、咀嚼を担う設計でした。除去したインプラント体を改めて見直すと、色々な部分で、長持ちさせる為の工夫を凝らした跡が見て取れました。例えば、
● 骨との連結をより強固にする為に、インプラント体に自分でより多くの穴を空け直したり、
● 顎の形に合わせて、わずかにインプラント体を曲げて湾曲させたり、
● 数年して、歯肉と骨が退縮していく事を見越した上で、やや深めに挿入したり
「成程、こうして長持ちさせているのね」と言う、施術者の意図が解りました。
同じ歯科医師として、「基雄、仕事とは、こうやってやるんだぞ!」というメッセージが、天国から聞こえてくるようでした。もう、父親はこの世に居ませんが、同じ歯科医師として、まだまだ学び取る事が多く、無言の対話と教えを受けているようでした。
その日は、仏壇に線香を添えて、「やっぱり、親父はスゴイな…」と報告しました。