私が日常の臨床で、口臭治療をしている中で、よく、お腹が張ってグルグル、ゴロゴロ鳴ると言う方がいます。本当にひどい時には、周りの人に聞こえるくらい出てしまう時があります。あまり経験が無い人には、このつらさが解りにくいと思いますが、実は意外と多く存在しています。
恐らく、西洋医学の内科を受診しても、腸内の異常発酵などと診断されて、整腸剤やビタミン剤、下剤などが処方されるかもしれません。しかしながら、漢方・東洋医学の分野から考察すると、こうした症状は、幾つかの体質が関係している事が多いです。古典による傷寒論・金匱要略には、以下の様な記載があります。
まず、お腹がゴロゴロ鳴ると言う症状は、「腹中雷鳴」が、該当してきます。これは、お腹の中で雷がゴロゴロ鳴っているイメージです。簡単に「腸鳴」と称する時もあります。
この体質は、お腹の中に余剰な水が増えすぎている「水毒体質」に相当します。しかもこの水は、澄んだサラサラしたキレイな水のイメージではなくて、どちらかと言うと、濁ったドロッとした感じの淀んだ水です。身体はこうした汚濁が溜まると、それでも何とか排除しようとします。それが、やがて下痢やお腹が冷えて嫌な感じが続く現象につながります。そして、その汚濁水は、腸内にとどまらず、他にも溜まりやすい場所があります。例えば、関節、胃内、涙、皮膚の肌理、そして、口腔内のネバツキによる、金魚鉢臭のようなザリガニ臭となって、口臭としても出てきます。
そして、この水毒が常にたまったままだと、精神的にも気鬱になってきて、過緊張、不安感や、くよくよしがち、心配性、キリキリした性格、イライラ、うつ病、自律神経失調症、パニック障害、不安神経症、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、ストレス障害、更年期障害といった、随伴症状を呈してきます。
私が担当した口臭の患者さんで、24才の大学生の方で、論文提出が上手く行かず、それ以来引きこもりの生活に入ってしまいました。舌を拝見すると、お口の中の空間よりも明らかに大きな舌で、強い粘つきを訴えていました。脈診も、「滑脈」が出ている事から、典型的な「水毒体質」と判断し、身体から余分な水をデトックスする漢方薬を処方した所、服用後、1カ月で、測定値の数値も下がり、日常生活も、徐々に外出できるようになり、最終的には論文の提出に間に合いました。
こうした場合、口臭の発生と精神的な引きこもりは、同じ原因から由来する…と考える所が、東洋医学の素晴らしい所です。根本を治療すると、それに付随する身体のシグナルサインの様々な部分が、ドンドン氷解していくのですね。恐らく西洋医学的な取り組みでは、専門分野が細分化されているので、内科、歯科、耳鼻科、心療内科などが分担して、治療に当たらなければならなかったかもしれません。
口臭治療を専門にして、生活の質まで改善できたことで、ご家族の方にも喜ばれ、治療して良かったと思える症例でした。