最近、患者さんからの問い合わせで、更年期障害に起因する、お口の中の違和感、口臭を訴える方が増えています。今月は、こうしたお悩みを体質別に分けて、もう少しわかり易く解説してみましょう。
また、最近、男性の更年期も増加中です。原因がはっきりしない不定愁訴が続くので、男性の場合、それが更年期に由来するとは考えにくいので、女性よりも、むしろ厄介といえるかもしれません。今回のテーマは、男性の方にも応用できます。是非、コーヒーブレイクの時にでも、遊び感覚で活用してみて下さい。
まずは、下記のチェック項目の該当する項目を見てみましょう。あまり深く考えずに、普段の自分と照らし合わせて、直感的な第一印象で選んでもらえると良いでしょう。
下半身は冷えるが、逆に上半身や顔が火照ったり、のぼせが出る
手はいつも温かいが、足先は常に冷たい
生理前、または生理中の特に前半がつらい
特に強くぶつけていないのに青あざや、小さな傷がシミになりやすい
特に足腰だけが冷えている、夏場でも靴下をはかないとつらい
下半身が浮腫みやすい
いつも貧血気味で、疲れやすく、生理不順がある
どちらかというと、肌が蒼白で血の気がなく、爪の色も白いほう
普段から、コロコロ便で、便秘傾向にある
仕事に手がつかない程、生理痛(男性の場合は体の何処かが痛い)がひどい
生理前(男性の場合は、常日頃から)に、特に気鬱、不安、イライラしてしまう
生理の経血に、赤黒い血塊が混ざり、比較的ドロッとして粘調性がある
急に顔が火照り、頭部、額を中心に、たくさんの汗をかく
小さな事が気になり、くよくよしたり、ため息をついてしまう
何でも、予定通り、時間通りキッチリ進まないと、ストレスを感じてしまう
最近、いつも疲れていて、やる気が出ない
排便の度に、肛門周辺から軽い出血を伴う
肛門の中から、または周囲の組織に柔らかい「いぼ」が出ている
出産・流産(男性の場合は大きなケガ、大手術)の経験がある。
【全体解説】
実は、上記の設問には、ある法則性が隠れていました。今一度、チェック項目を下記に示しますが、全体が「5群」のパートに分かれていたのです。その分かれ目に線を入れておきましょう。
1群
下半身は冷えるが、逆に上半身や顔が火照ったり、のぼせが出る
手はいつも温かいが、足先は常に冷たい
生理前、または生理中の特に前半がつらい
特に強くぶつけていないのに青あざや、小さな傷がシミになりやすい
2群
特に足腰だけが冷えている、夏場でも靴下をはかないとつらい
下半身が浮腫みやすい
いつも貧血気味で、疲れやすく、生理不順がある
どちらかというと、肌が蒼白で血の気がなく、爪の色も白いほう
3群
普段から、コロコロ便で、便秘傾向にある
仕事に手がつかない程(男性の場合は体の何処かが痛い)生理痛がひどい
生理前(男性の場合は、常日頃から)に、特に気鬱、不安、イライラしてしまう
生理の経血に、赤黒い血塊が混ざり、比較的ドロッとして粘調性がある
4群
急に顔が火照り、額を中心に汗をかく
小さな事が気になり、くよくよしたり、ため息をついてしまう
何でも、予定通り、時間通り進まないとストレスを感じてしまう
最近、いつも疲れていて、やる気が出ない
5群
排便の度に、肛門周辺から軽い出血を伴う
肛門の中から、または周囲の組織に柔らかい「いぼ」が出てくる
出産・流産(男性の場合は大きなケガ、大手術)の経験がある。
以上になります。如何でしたか?
東洋医学と漢方薬の基本となるのは、患者さんの体質を見定める事にあります。その体質は、初期の体質から徐々に症状が重くなるにつれて、呼び名も変遷していきます。例えば、元気がなく疲れやすい体質は、「気虚」と称し、やがて、気が足りなくなると、身体を温める事が難しくなるので、「陽虚」に傾き、さらに慢性的に経過して、五臓の中で、特に腎の働きが弱くなると、「腎陽虚」になってしまいます。この時期になると、臓腑の働きが失調して来るので、ハッキリとした体の変調が出てくるようになり、医療機関の受診を検討するようになります。
この事から、最初の気虚の段階で、自分の身体から発している健康メッセージのシグナルサインを素早く察知し、「陽虚」→「腎陽虚」になる前に体質改善を行う事が大事です。
例えば、1群と3群にチェック項目を多く入れた方は、これから解説する両方の体質を視野に入れながら、上手く漢方薬の「さじ加減」をブレンドして、養生した方が良い結果が出やすい事を示しています。つまり、この5群の中で、選択項目が多いほど、相乗的に折り重なる体質が増える事になるので、より重篤な症状を呈します。実際の臨床でも、漢方薬で口臭対策と体質改善する時も、長期間を要する傾向になります。
拙書「病気の9割を寄せ付けない たった一つの習慣」にも記述しましたが、病邪が浅い内に、病勢の軽い内に早めに対応をして、大病にならないうちに養生するのが、賢いセルフメディケーションです。次項より、一つ一つ詳述していきましょう。
★お知らせ:以下に列記している病名は、歯科領域以外の部分に関しては、治療の過程で患者さんから寄せられた、問診で得られた内容やお薬手帳の健康情報を基本にして、文章構成しています。中城歯科医院では、歯科以外の疾患に関しては、診断行為、治療行為は行っておりません。
1群:更年期の予備軍
こちらの体質は、普段からまだ体力は充実しており、時々、下腹部の左の辺りの痛み、肩こり、頭重、めまい感、のぼせて、なおかつ足が冷えるなどの症状を伴います。
まだ、初期段階なので、仕事でストレスを抱えた時に、「何となく、最近疲れが取れないなぁ…」という感じで自覚する事が多いです。女性の場合は、婦人科系のお悩みが徐々に出てきます。
随伴症状:生理不順、月経異常、生理痛、血の道症、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきびなどを伴います。
推奨方剤:桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、もし皮膚症状が強ければ、桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)もおススメです。
【桂枝茯苓丸の解説】
東洋医学の中で、生命を営む構成要素である、「気・血・水」の内、特に「気」と「血」は、身体の中を循環し、健康の恒常性や自律神経のバランスを調整しています。しかしながら、ストレス、過労、更年期症状で「血」の流れが滞ると、循環する臓腑の場所に偏りが起きてきます。
前述したお風呂の温度分布でも解説したように、身体の中も温かいものは上へ昇り、冷たいものは下へ降りる性質がある為、上半身はのぼせ、下半身は冷えてきます。この状態のまま時間が経過すると、やがて、滞りが生じている所には、熱を抱えるようになります。電気的な回路の中で、電気抵抗値の多いところが発熱するイメージですね。その為に、本来スムーズに流れなければならない部分に、熱(炎症)による痛みが生じてくるのです。それが、東洋医学的では、生理痛、肩こりの正体と解釈します。また、この熱が、皮膚に波及すれば、ニキビや皮膚炎を伴います。
「桂枝茯苓丸」は、滞った「血」の巡りを良くして、特に下半身に気血の流れを促すので、更年期による足冷えや生理痛を改善します。
2群:更年期が少し進行した心配な時期
こちらの体質は、身体が病気との免疫機構により、邪盛闘争をしてやや疲弊している状態になると、体力はいつも虚弱になり、冷え症、貧血、慢性疲労を伴うようになります。特に、下腹部痛、頭重感、耳鳴り、動悸を伴う事が多いです。
随伴症状:生理不順に加え、産前・産後、または流産による健康障害(貧血、疲労倦怠、むくみなど)、立ちくらみ、腰痛、足腰の冷え症、右の写真の様な、むくみが出てきます。
推奨方剤:当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
【当帰芍薬散の解説】
全身に流れる血液は、身体の中を循環し、生命を維持するための、栄養や酸素などを運ぶと同時に、老廃物の回収などもしています。実は、漢方でも同じ概念として、こうした働きを「血(けつ)」と表現しています。
そして、見えない生命素である「気」は、28日周期で徐々に満たされ、「血」を女子包(子宮)に集める働きがあるので、女性の場合、この間隔で生理が起きると解釈しています。
ここで重要な事は、生理が起きる為には、「血」がスムーズに集まって、しかも、充分に満ちていなかればなりません。つまり、「流れ」と「量」の両方が充実してないと、「気」の流れが滞り「血」の量も不十分だと、生理が正常に働かなくなってきます。
こうした事から「血」の量が少なく、経血の薄い人は、体中に栄養や熱が充分に行き渡りません。その結果、より頑固な冷えや生理不順の症状が現れます。さらに、「血」がスムーズに循環しなくなると、細胞内液・外液の水分代謝が悪くなり、特に下半身に余分な水分がたまり、体をさらに冷やしてしまう悪循環を引き起こします。
漢方薬の「当帰芍薬散」は、全身に大切な栄養を与え、血行を良くして、水分代謝を整える事で余分な水分を体からデトックスして、冷え症・生理不順を改善します。
3群:更年期による気血の滞りが、胃腸に作用し便秘になるケース
1郡・2郡の体質の中で、特に更年期の症状が胃腸に及ぶと、前述した気血の滞りによる「熱」が、胃腸に作用し、便を乾燥させてしまうと、頑固な便秘になる方がいます。特に、体力中等度以上で、のぼせを伴うことが多いです。今まで以上に、便秘や痛みが強く出てくるようになります。
随伴症状:月経痛、月経時や産後の精神不安定、腰痛、コロコロした便秘、高血圧、痔疾、打撲症
推奨方剤:桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
【桃核承気湯の解説】
更年期によって「気」や「血」が滞り、流れが悪くなると、高速道路の渋滞と同じ現象が起きてきます。この状態を「瘀血」(おけつ)と言い、その滞りが、やがて「瘀熱」が起きてきます。この熱により、便秘や下腹部痛が起こり、常に熱化しているので、ちょっとした事で、怒りっぽい、イライラ、情緒不安定、精神不安を引き起こすようになります。1郡・2郡との鑑別点は、前2郡に比べて、便秘とイライラがより顕著になってきます。
「桃核承気湯」は、「気」「血」の流れを良くして、生理前や生理中の諸症状を緩和します。また、痛みを鎮静する生薬も配合しているため、生理痛・肩こりにも効果が期待できます。
4群:更年期による気血の滞りが、特に精神活動に作用したケース
更年期の症状の中で、体力は中等度以下で、特にのぼせ感が強く、疲れやすく、クヨクヨ感、ため息、何事にもやる気が出ない、職場の人間関係、対人関係で悩みが多い、精神不安定やイライラ、不眠などの精神神経症状が強く出てきた状態。
随伴症状:虚弱体質、月経不順、不眠症、慢性疲労症候群
推奨方剤:加味逍遙散(カミショウヨウサン)
【加味逍遙散の解説】
「気」「血」の滞りが熱に変わることは、前述したとおりです。暖房で温められた暖気が天井に上がっていくように、この症状が進行すると、本当に気持ちが上気してきます。
本剤は、この「気」を下に降ろして、気持ちをほぐして、さらに全身に行き渡るように促します。加えて、上気して火照った熱をクールダウンするので、とても気持ちが安定してきます。さらに、不足している「血」を補う効能もあるので、女性の生理活動のバランスを整えます。
この漢方薬を選ぶ鑑別点は、「肝」に異常があり、交感神経が過緊張したことによるイライラ、不眠症などの中高年女性の神経症状に用います。また、同時に自律神経のバランスを調整し、イライラやのぼせを鎮めて、血行も改善します。
漢方では、女性はとくに「血」が、健康な心身を営むための基本であると解釈しています。このことは、総じて更年期に現れる女性特有の不定愁訴による悩みの症状は、大なり小なり「血」の不足、あるいは、生成不足が原因と考えています。
実は「気」と「血」は、常に表裏一体の関係で、お互いが補完しあう関係でバランスを取っています。ところが、「血」は、女性の場合は、出産や生理の回数を重ねるごとに消耗傾向にあり、徐々に減っていきます。加えて、現代人は、デスクワークなので目を酷使することで、「肝血」が消耗しがちで、過労、ストレスなどでも、「血」は減少していきます。通常は、食事から栄養補給がなされて、水穀の精微という物質から、気や血は、充足されていくのですが、不規則な食生活により、女性ばかりか、男性も「血」の減りやすい生活をしているといえます。
「気」「血」は、その巡りがとても重要で、片方が減ると、もう一つもその動きがスムーズでは無くなります。「気」がうまく動かなくなると、余剰な熱を生み、熱は上に上がるので、上半身が特に熱くなります。また、その熱は脳の活動にも負担をかけるので、些細なことでカッとしたりイライラしたりしてしまうのです。このような時に、加味逍遙散はとてもよく効きます。
5群:更年期による気血の滞りが、肛門周囲に作用したケース
更年期において、体力中等度以上で、気血の鬱滞により「瘀血」と「瘀熱」により、大便が固くなり、肛門周囲の血管の血流が滞った時に、更年期の一部の方に、痔を伴う症状が出てくる事があります。
大便は常に固く、コロコロ便を呈し、強くいきまなければ、排便が完了しません。また、気が張っていると、体の中の臓腑も程よいスプリングの張力により、所定の位置に留まっているのですが、気が足りなくなると、そのスプリングが緩んで、臓腑が支えていられなくなり、下に垂れて、時に体の外に出てくる事になります。
随伴症状:胃下垂、子宮脱、脱腸、痔核(いぼ痔)、切れ痔、頑固な便秘、
推奨方剤:乙字湯(オツジトウ)
【乙字湯の解説】
漢方では、痔は滞った「瘀血」が、肛門に症状として現れた状態と考えます。
更年期に起こる不定愁訴の症状の原因を、押しなべてホルモンバランスの乱れと考えます。その為に、一般的には、女性ホルモン剤の補充する治療法が行われます。これに対し、「乙字湯」は、漢方理論をベースに、実は、江戸時代の日本人医師が考案した処方です。「血」の流れを疎通して組織の傷の治りを早め、さらに、うっ血と腫れも抑えます。加えて、便の通りを良くして、排便時の痛みや圧迫を緩和して、肛門周囲の筋肉の緊張を高めて、中の痔が外に出てこないようにします。とても、良く配慮された処方構成なので、女性の方で痔を伴う方は、一度試してみることをお勧めします。