コーヒーと口臭の発生について…嗅覚の不思議

今月3回目のメディア取材について、情報解禁になったので、オープンにしてみましょう。

Q&Aサイトの「教えて!goo」には、コラム記事として「教えて!gooウォッチ」があります。

 

https://oshiete.goo.ne.jp/watch/

 

そこに、記事が掲載されています。テーマは「コーヒーと口臭の因果関係」についてです。コーヒーブレイクの言葉があるように、1杯のコーヒーの醸し出す香りは、良い気分転換になります。私も日常生活の中で、1日、1杯は飲んでいます。

 

現在、WEB上で公開されている情報に対して、編集の際に削除されてしまった部分にフォーカスして、もう少し付記しておきましょう。

 

コーヒー豆の香りは、何とも心地良い香りで、リラックス効果があります。

ヒトの持つ感覚には、「五感」があります。日常生活をする上で、外界から入ってくる情報の約7~9割は「視覚」と「聴覚」で占められていると考えられています。これは『見て』→『聞いて』に相当します。

例えば、自動車の運転は、視覚と聴覚がしっかり働いていれば、何とかなります。花粉症で鼻が詰まっていても、交通事故を起こすことはありません。

 

嗅覚をつかさどる脳の領域は、前頭葉と言う部分に存在しています。前頭葉は、嗅覚の他にも、「思考」「創造性」「物事の意欲」「情動に基づく記憶」「決断力」「実行機能」などを行っています。そして、ヒトが社会生活をしていく上で、その他の脳の領域の重要度が増し、視覚・聴覚が高度に発達してしまったために、嗅覚の機能の割合が徐々に退化してしまいました。

特に、芸術・科学・音楽・美術・IT産業、テレビなどの表現を高度に発達させる事で、視覚・聴覚の刺激が増加し、前頭葉以外の部分を高度に発達させていきました。

 

特に、最近50年間でコンピューターが発明され、それ以前では成し得なかった暮らしが出来るようになりました。

しかしながら、これだけインターネットやスマホが発達しても、臭いを届けるアプリは、未だに存在しません。

特に、視覚・聴覚は、主に大脳新皮質が刺激を受ける為に、映像や音楽の分野が飛躍的に進歩しましたが、ヒトの脳は、それと引き換えに、動物的な嗅覚の能力は、必要最小限になってしまったのです。

 

しかしながら、最後まで残った臭いの感覚は、過去に嗅いで学習した「ニオイの記憶」と照らし合わせて判断する…と言う部分だけは残されました。

 

以前のブログでもご紹介しましたが、冷蔵庫に入っている牛乳が、まだ飲めるのかどうか?は、視覚・聴覚よりも、クンクンと嗅いで調べる嗅覚を頼りにします。

 

そして、ここが一番重要なのですが、視覚・聴覚は、知り得た情報を脳が解析し、直感的に「良い」「悪い」という判断基準で、レッテルを張る事が多いです。

 

青信号を見れば…通って良し。赤信号ならば…止まれ(行く事は悪い)と判断します。

 

所が、嗅覚の判断基準は違います。真っ先に得る感覚は、良いか悪いかよりも、「好き」か「嫌い」または、「心地よい」か「不快感」で評価します。

 

コーヒーのニオイは…心地よい。腐った卵のニオイは…不快と、判断します。

 

何故でしょうか?脳の中で記憶の中枢とニオイの中枢は、実は、近い位置関係にある事に起因しています。

 

過去に嗅いだニオイの記憶は、一生涯残ると言われています。そして、一度嗅いだニオイは、忘れる事はありません。久しぶりに再会した友人の「ワキガ」のニオイは、時間を超えて、瞬時に呼び起されます。

 

ここが、臭いを専門にする職業の、本質的に難しい所だと考えています。

 

一人の患者さんが、私はクサイ、自分は臭っている…と、思うに至った原体験が、過去の生活の中で必ず存在しています。そして、その時に立ち返って、ニオイの記憶ごとリセットして→治ったと実感して頂かなければ、本質的に改善した事になりません。

 

しかしながら、タイムマシンでも使わない限り、そのような治療は難しいです。

 

では…どうしたら良いのか?

 

当院では、過去のニオイに記憶の中で、一番直近のものを思い出して頂き、日常活の中で、出来るだけ口臭が出ていると、本人が自覚している…その状態を再現して頂きます。

 

それが、人によっては、起床後だったり、空腹時だったり、仕事中、友人と話している時などなどです。

 

そして、その時の呼気を専用の臭気袋に入れて、日常生活の口臭を採取します。臭気袋は、密封性が強く保たれているので、2~3日経過しても測定に耐えます。そして、その手に入れた臭気袋に取り込まれた口臭を、専用の測定機にかけて、どの様なニオイが、どの位の量、発生しているのか?ニオイの種類は何なのか?について、検証していきます。

 

こうした取り組みを経て、患者さんによっては、3~10回度、調べる事で、ようやく、自分には口臭が発生していないと、実感して頂けるようになります。

 

口臭からの完全な離脱は、その位、繊細でデリケートな部分を内在していると私は思います。