歯科医院の経営には、従業員さんの協力も必要で、結婚退社などで人が入れ替わる時に、新しい人材を採用する時があります。
当院は、医院の運営を慎ましく営んでいますので、従業員さんの人数も少ない方だと思います。現在は、受付嬢:1名、歯科助手さん:1名、技工士さん:1名の体制で構成しています。
新しい人材を雇う時には、履歴書持参で面接試験を行います。
今回は、少しネタバレになってしまいますが、当院で実施している面接の方法をご紹介してみましょう。もしかすると、他の業種さんにも参考になるかもしれません。
① まず、最初に面接の際に伺う項目として、
「アナタは、小学校の時代に、どんな係をするのが好きでしたか?」
「アナタは、クラスの友人関係の中で、どの様な位置づけでしたか?」と聞いてみます。
これで、おおよそ、その子のキャラクターが解ります。人間は、大人になっても、本質的な部分は、そんなに大きく変わらないと考えています。
私が好む人材は、例えば、「草花係」や「黒板係」などです。人知れず、与えられたノルマを粛々とこなし、決して大きく評価される事は無いですが、学級運営の中では、重要な仕事です。こうした経験を積んできた人のポイントは高いです。どちらかと言うと、コツコツ型ですね。
逆に、毎年、「学級員」や「放送係」などを率先して引き受けてきた方は、なかなか採用する方向には傾きません。こうした役職は、いわば、生徒の中では花形です。イケイケ型ですね。
また友人関係の立ち位置で見ると、ガキ大将の男の子に対して、ズバズバ注意をして、泣いている女の子の矢面に立って、「アタシが何とかしてあげる!」と言う様な、個性が前面に出てくる人ではなくて、むしろ、教室の隅で、「星の王子様」をジックリ読んでいるような人の方が、私との相性が良いみたいです。
まとめてみると、私は、どんなタイプの人材を求めているのかと言うと、たった一言で表現するならば…、
「そこにいるのに…存在感が感じられない従業員」を常に求めています。
これは、ネガティブな感じで、悪く表現している訳ではありません。
例えば、「餅つき」をイメージしてみて下さい。杵をもって、ペッタンと突く人と、
臼の中の餅に手を入れて、サッサッとひっくり返す人がいます。
もちろん、餅を突く人が先生で、餅を返す人が従業員さんの役割です。
餅つきマスターの職人さんと、餅を返す相方との息がピッタリ合ってくると、あたかも、餅つき職人さんは、介助者の存在を気にしない所で、自分のペース配分で、気持ち良く連続して、ペタペタ突く事が出来ます。もし、餅を返す人の行いが前面に出てしまい、それを気にしながら作業をするとしたらどうでしょう?テンポは狂い、上手い調子で、連続して淀みなく突く事が出来ないでしょう。
歯科治療においても同様で、施術者と介助者の間で行う、阿吽の呼吸が重要になってきます。
先生と従業員さんが、まるで淀みの無い「舞のように」、心地よい「楽器を奏でるように」、一連の流れを、収まり良くスムーズに完了したいのです。
これが、私にとっての「存在感を意識しない、従業員さん」と言う事になります。
② 次に行う面接の内容は、
面接に来た人には、指先の動きを見る為の、「機能試験」「適性試験」を行います…と、案内した上で、以下のテストをしてもらいます。でも、実は、その目的は全く別の所に存在しています。以下一連の流れを、シミュレーションしてみましょう。
●私からの指示内容
「ハイ、それでは、右手の人差し指を出して、右の耳の穴に入れて下さい」
「次いで、左手はグー、パ~を連続して行ってください」
その作業を継続しながら、しばらく時間を置きます。
「さらに、両目の瞼を、開けたり閉じたりしてください」
「もう一つ、唇を、ひょっとこのように、出したり引っ込めたりして下さい」
などを指示します。既に、ここまでで、1~2分は経過しています。
さらに、「右手を耳の穴から外し、今度は、人差し指を鼻の頭に移動して下さい」などを、延々と繰り返し、おおよその継続時間を見ておきます。ここまでで、3~4分は経過しています。
実は、取り組む内容には、大した意味はありません。私は、その作業を見ながら、メモを取っている、「フリ」をしています。
もし、途中で、面接に来た方から、「これ、何の意味があるのですか?」と言う質問が出たら、その時点で、適性試験は終了します。面接者に来た方は、何となく不機嫌そうです。
●
この行いで、何を見ているのかと言うと、
「私からのお願いに…疑問を挟まず、どれだけ長い時間、従順に従ってくれるか?」
を、観察しているのです。
過去の面接で、10秒程度で、私からのお願いを、速攻で打ち切った方がいました。
このテストの「種明かし」は行わずに、その方の採用は見送りました。
逆に、一所懸命、5分以上取り組んでくれる方もいます。私の中では、もう一発採用です。加えて、最後に種明かしをした時に、「クスッ」と笑ってくれたら、100点満点です。
今まで、何十人も面接してきましたが、二人だけ、このテストをやり遂げた方がいます。どちらの方も、7年と13年、当院の従業員さんとして就労してくれました。
③ 経験者と未経験者
職種によって個人差があるので、王道の理論ではないのですが、当院の場合は、どちらかと言うと、「未経験者」の方を採用する傾向に有ります。
私は、臨床経験も今年で35年になりますが、
面接者の中には、「何でも出来ます!」と言う部分を、売り込んでくる方がいます。
私からの返しの質問として、
「どんな事が、出来ますか?」と、聞いてみると、
「前の歯科医院では、〇〇、××もそうですが、△△まで任されていました」などの答えが返ってきます。
私は心の中で、「エッ、ウーン」と考え込んでしまいます。
時として、それは、自分の資格で許されている以上の仕事の内容である事もあります。この時になって、他の医院さんでは、本来であれば、先生が担当すべき部分も、従業員さんにやらせてるんだ…。と、解ってきます。
残念ながら、こうした事が解った場合には、当院では採用を見送る事にしています。
手前味噌になりますが、当院の臨床スタイルは、関係法規にのっとり、先生と従業員さんの職務の分担は、厳密に線引きしている方だと思います。仮に、何でも出来る有経験者さんが従業員さんになった場合には、もしかしたら、
「この医院では、何も仕事をさせくれない!」
と、感じてしまうかもしれません。本人にとっても、非常にフラストレーションが溜まる職場になる事が予想されます。
④ 器用とぶきっちょは、どっちが良いの?
こちらに関しては、当院の場合、圧倒的に「ぶきっちょ」の方を採用する場合が多いです。
「器用貧乏」とはよく言ったもので、手先が器用で、最初から仕事の呑み込みが早く、何でもすぐに出来て、そつなくこなす。と言う方は、「伸びしろ」が少ないような気がします。
何となくですが、「自分は、ここまで出来れば良し」と言う判断を自分自身で引いてしまっているような気がします。
それに比べて、手先が不器用で、良く物を落とす、セメントが上手く練れない、電話の対応ミスが多いなどの方は、ひとつひとつ教え込んでいく事で、先に行って、「大化け」する方が多いです。
そして、大化けする方は、殆どのケースで、「なにクソ!」の精神を持っています。例えば、仕事で失敗した時に、ネガティブな表現で叱ることなく諭していくと、徐々に失敗しないようになって行きます。教え込んだ事を、メモ書きして残しておく、陰で、こっそりセメントの練る練習をしている…何てことに取り組んでいる方は、すぐに上達して行き、やがては、何でもそつなくこなす器用な方を超えていくと思っています。
今の所、新しい人材を補充する予定はないので、問題ないですが、将来、面接が必要になった時、このブログが読まれていると、チョット困るのですが、公開してみました。