子供の頃は、特撮の映画の仕事に関わりたくて、特殊効果技術の専門書も読み漁り、本業にしたいと真剣に考えていた時期がありました。
映画の特殊効果は、模型や着ぐるみ、豪華なセットや爆破技術を超えて、現在は、コンピューターグラフィックスを中心とした、CGが全盛になってしまいました。
昔ながらの、飛行機の模型をピアノ線で釣って撮影したり、ミニチュアの街を火薬を使って破壊する、一瞬のカタルシスは無くなり、CGの怪獣が街を闊歩しています。
これは私見になりますが、
CGの映像が、どんなに精密に作り込んで、本物のように似せて作っても、実際にその映像を見た時に、何となく「アッ、やっぱりCGね」の解ってしまうのは、何処から来ているのでしょうか?
私は、「空気感」だと考えています。
怪獣が熱線を吐いて、ビルが瓦解する時をイメージしてみて下さい。
大きな塊が、破壊・粉砕されて、粉々になって崩れ去っていきます。
今回のゴジラの映画でも、度々、そうしたシーンがありました。
ただ、CGの映像は、細密に作り込んでしまったために、非常にリアルに再現されているのですが…、
「全部が、キメ細かく、全てがキレイに再現されて、見えてしまっているのです。」
現実の世界の、実際の画像として参考にすると、「9・11の同時多発テロ」の記録映像で、ワールドトレードセンターのビルが崩れ去る時の映像を思い返してみて下さい。
建物の細かい粉塵が、町の至る所に散乱し、その煙で周りが良く見えません。もし、ココに怪獣が潜んでいたら、どんなに巨大でも、その全体像はハッキリとは見えず、身体の所々が、僅かに見えて、爆発や閃光で、町の随所が一瞬フラッシュして、怪獣の身体が、いろんな角度から、ボヤーっと浮かび上がって見えるに違いありません。
そこには、「確かに存在していた…空気感が存在しているはずです」
これに対し、CGで作った映画の破壊シーンは、とにかく、ハッキリ見えすぎ…と言うのが、私の感想です。
もう少し、燃え盛る紅蓮の炎や粉塵で、怪獣の動きがボンヤリしている方が、恐怖感が高まるのではないでしょうか?
次に何をするのか解らない
予測不能の破壊が起きるかもしれない
人知を超えた怪獣に対し、今以上に畏怖の念を抱き、神々しい存在になるような気がします。そこに、怪獣映画の本質が有る様に思います。
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所で、ゴジラは、放射能で巨大化した…と言う設定ですが、大学院で放射線科に在籍していたものとして考察してみると、生物は本当に巨大化する事はあるのでしょうか?
実は、放射能の影響が無くても、生物が巨大化した時代があります。それは、ジュラ紀などの恐竜が存在していた時代です。
生物(特に爬虫類・両生類)は、環境が温暖で栄養が豊富であれば、長い年月かけて、巨大化してしまう特性があります。
一方で、放射能で巨大化するメカニズムについて考察してみましょう。
1.まず、個体が大きくなるためには、2種類の可能性が考えられて、細胞自身が無限に増殖するか、あるいは、一つ一つの細胞が巨大化する必要があります。
2.仮に、細胞が巨大化する方法を選択すると、戦いの中で、ひとつの細胞が損傷をうけると、身体の一部の組織が、一気に無くなってしまう可能性が示唆されます。これは、生物として、あまり合目的な巨大化ではありません。
3.と言う事は、もう一つの選択肢として、細胞が無限に増殖したほうが、効率が良いと考えます。
4.放射線を浴びると、それが通過した所の細胞の遺伝子情報が損傷を受けて、遺伝子の鎖が、一瞬でも壊れます。しかしながら、大量の放射線で、遺伝子情報が常に損傷を受け続ければ、巨大化をする事は難しく、生命の維持さえおぼつかなくなります。
5.その為に、生物には壊れた遺伝子を、再修復したり、仮に修復できなかった場合には、廃用性萎縮をして、身体の外に異物として排除する機構が備わっています。(ちなみに、歯科用のレントゲン撮影は、1年間で生活して、誰でもが太陽から浴びてしまう自然放射線量の30分の一以下で、全く問題のない被ばく量です)
6.さて、ココからが重要になりますが、ゴジラが放射能で巨大化するには、遺伝子情報が壊れることなく、細胞だけが無限に増殖する必要性が考えられます。
7.実は、細胞にも寿命があります。皮膚の細胞などは、おおむね、1カ月で入れ替わり、ドンドン下から新しい細胞が生まれてきます。と言う事は、巨大化を維持する為には、細胞そのものの寿命も長くする必要もある訳です。理想的には、その細胞の寿命のサイクルが無くなってしまうのがベストです。
8.結論としては、ゴジラの身体の細胞は、宿主にとっては無害な「癌化」に類似した細胞組織に変化しまえば、巨大化が確保される訳です。
9.つまり、ゴジラの設計図を考察すると、遺伝子情報の大事な部分には損傷を受けずに、なおかつ、放射能の影響による、廃用性萎縮や異物排除機転も何とかかわして、細胞の寿命の部分だけが、延命できれば、元の形質を維持したままで、巨大化できる訳です。
【もし、私が脚本家だったら】
ゴジラは、放射能から生まれた巨大生物です。放射能を浴びても死ぬ事はありませんでした。この貴重な生物サンプルを、ミサイルやレーザー光線を駆使して、何とか排除しようと躍起になるだけでは、テーマ性が弱い気がします。
でも、チョット待ってください。
戦って飛び散った細胞を採取して研究すれば、人間が癌になっても死なない、癌に対する治療法が見つかるかもしれない…と言う論法で、ゴジラを研究対象として扱い、ヒトの健康に貢献できる存在として、ストーリーを作る事も可能なのではないか?と、思うのです。
実は、こうした医学的な視点で、ゴジラ映画を作った作品が存在しています。
『ゴジラ対ビオランテ』です。
この敵になる怪獣は、バイオテクノロジー専門の博士が、過去に戦ったゴジラ細胞を採取して、自分の娘の病を治すために応用しようとして、実験室で、植物にゴジラ細胞を移植してしまい、その植物が巨大化してしまい、新たな怪獣として暴れ出す…と言うストーリーでした。
そして、ゴジラとゴジラの亜種の植物怪獣が、バトルを繰り返すのです。この敵怪獣のビオランテの操演技術は、大勢のヒトの操作で全て行われ、CGでは再現できない、ヒトの血が通った出色の出来で、今見ても、アナログな迫力があります。
そして、ゴジラ細胞を…皮肉な事に、日本だけが保有している。
と言う事が、原爆の次に置き換わる、世界のパワーバランスの中心になってしまう。それを、被爆国である日本が所有している…と言う視点も画期的でした。
ゴジラ映画の中でも少し異質で、ただ単にゴジラを退治して終わりと言う話ではなくて、医学に応用が出来るんじゃないの?と言う視点で作られています。
ゴジラ映画のベストテンでアンケートをとっても、必ず上位に来る、チョット異色の映画です。