5月下旬に巣作りをはじめ、6月下旬に巣立って行ったツバメの家族の名残を惜しんでいたら、先月のブログでもご案内したように、すぐに、新しいファミリーが巣作りを始めました。
ツバメの家族計画では、少し遅めの巣作りで、人間社会と同じように晩婚カップルです。
今度は、巣作りの初めから卵を産むまで、良く観察する事にしてみました。
ツバメの巣は、垂直に切り立つ壁の側面に作ります。おおよそ、こんな流れで巣が出来上がっていきます。
1. まず、ココは、巣に適した所かどうか?を、調べるために、爪を器用に使って壁にしがみつきます。
2. 羽を目一杯広げて、頭をキョロキョロ左右に動かします。まるで、寸法を計測しているようです。
3. やがて、壁の壁面に、最初の起点となる「泥ペースト」を、くちばしを使ってベースとなる基礎を作ります。(上図1+下図参照)
4. その基礎の上に、今度は、小枝や枯草をまぶした「粘着建材」を上に乗せていきます。(上図2)
5. 最終的に、泥を団子状にしたものを、隙間なく小枝の間に組み込んで、強度を上げていきます。(上図3)
一口に、ツバメの巣と言っても、これだけの作業をして、自分たちの巣を構築していきます。
壁→泥ペースト→小枝→泥団子
これだけの構造を盛り込んだ、「ハイブリッド構造」なのです。
改めて良く見てみると、本当に考えて作りこんでいるなぁ…と、感心させられます。
よく考えてみると、壁と小枝は、直接にはくっ付きません。
間を取り持つ「介在物が無いと」しっかりと組み付けることは難しいのです。
実は、私達、歯科医師も、患者さんのお口の中で、同じような仕事をしています。
「歯」と「セラミック」は、そのままの状態では強固に接着しません。40年前までは、「接着」と言う技法ではなくて、ただ単に機械的に嵌合するだけの「合着」と言う手法で、取り付けているだけでした。
それが、私が歯学部に通学していていた、臨床実習をしていた6年生の時に、歯と人工物のセラミックが、接着するかもしれない…新素材が市場に出てきました。
「皆、そんな事、出来る訳ないじゃん!」と、高をくくっていたのですが、本当にくっ付く事が解って、歯科業界は、よろめき立ちました。
今まで、付かなかった物同士が、シッカリ付く…この事によって、新しい設計の歯科治療が開発され、適応症が、大幅に拡大されたことを、35年たった今でも、鮮明な記憶として覚えています。
では、どのようにして、それを達成したかと言うと、ツバメの巣と同じように、
「歯とも…良く付いて」
「セラミックとも…良く付く」
両方に強固に接着する介在物の存在が見つかった事で、それを、事前に「下処理」して、両者の間に付与すれば、歯とセラミックは、ピッタリ付いてしまうのです。
この介在物の事を…「プライマー」と言います。
この仕組みと全く同じ事を、ツバメさんは、実践しているのです。壁と小枝の間に、両者が良く付く、泥ペーストを付与する事で、接着を強固にしている訳です。
さらに、小枝の隙間には、泥団子を食い込ませることで、コンクリートに入れる砂利と同じように、より強固な構造にしているのです。
こんな小さな命の営みの中にも、自然から学ぶことは多いのです。
所で、巣作りの中で、組み付けそこなった小枝などは、滑って床に落下してしまいます。
でも、ツバメは、この落ちた素材を「再利用」しようとはしません。何故でしょうか?
それは、掃除の際に、駐車場をホウキで掃く時に、その理由が解りました。
実は、小枝は、床に落下すると、ツバメの唾液で、ドンドン固まっていきます。
すると、もうツバメの力では、床からは、もぎ取る事が出来ないくらい、強固にくっ付いてしまうのです。
私がホウキで掃こうとしても、簡単には唾液付きの小枝は、床から除去する事は出来ませんでした。
恐らく、唾液の接着力には、図工用のノリと同じくらい「速乾性」があるのではないか?と、考えています。
何となく、昭和初期の鼻たれ小僧が、自分の衣服の袖で、鼻を拭いた後に、ペカペカに固まって白く変色している情景を思い出しました。
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実は、こうした、自然から学んだ技術を、生物模倣(バイオミメティクス)と言います。
例えば、衝撃波を和らげるための新幹線の鼻先の構造は、カワセミのくちばしの形から学び、
植物の「オナモミ」のトゲトゲした表面性状から、マジックテープが発明されたりしています。
人間が技術開発するずっと前から、自然界では、合目的な形として、仕組みや形状が取捨選択されて、使いやすい形が採用されているのです。
ツバメさんの、「小さな命の営み」の中にも、学ぶことは多いです。(→後半に続く)