「小太郎」漢方メーカーから、取材を受けました。オーラルフレイルへの可能性

 

日本における漢方薬メーカーは、ツムラがメジャーです。業界シェアは、80%以上なので、漢方薬メーカーと言えば、『ツムラ』になります。

 

ただ、それだけでは足りない部分もあり、ツムラでは出せない、マニアックな作り方をしている「小太郎」や、カネボウから派生した「クラシエ」、その他、イスクラ・剤盛堂などの漢方メーカーもあります。

 

私は、口臭の患者さんへ処方する漢方薬も、年々数を増していき、現在では、50種類以上漢方を駆使して、近隣の薬局さんで調合してもらっています。

 

その中で、昔から付き合いのある「小太郎」と言うメーカーから取材依頼がありました。

 

小太郎と言うメーカーは、非常に玄人好みの特徴があります。

例えば、漢方の古典には、煎じ漢方薬を作る時に、ジックリ煮出した方が良い生薬や、サッと軽く煎じた方が良い生薬など、

「こうして作った方が、より良い漢方薬が出来ますよ。」と言う、

 

細かい「レシピ」が記載されています。小太郎は、そうした所も忠実に製造する事で、よりマニアックに商品を提供している業者なので、一部の漢方薬を扱う先生の中には、小太郎オンリーと言う方もいます。

 

さて、そうした玄人受けするメーカーから、

『甘露飲』と言う漢方薬について、口臭・オーラルフレイルの観点から、

臨床データを取りたいので、協力してもらえないか?と言う要望が入り、

打ち合わせの機会を持ちました。

 

オーラルフレイルとは…咬む・飲む・喋るなどの口腔機能の軽微な機能低下や食の偏りも含んだ、身体の衰え・加齢による不自由(フレイル)・虚弱体質の事です。

この概念は、東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授、飯島勝矢教授らが、厚生労働科学研究で実施した大規模健康調査によって提唱されました。

この「オーラルフレイル」は、健康的な生活と完全機能障害との中間点に位置しており、一度罹患しても、また戻る可能性のある「可逆性」と言う点が最大の特徴です。つまり、早めに気づき、適切な対処をする事で、より良い健康的な生活を長く維持する事が出来るのです。

オーラルフレイルの中には、滑舌低下、食べこぼし、軽いむせ返し、うまく咬めない食品の増加、口腔乾燥などの僅かな症状の変化です。徐々に変化して来るので、往々にして見逃してしまい、容易に気が付かないので注意が必要です。

 

今回、このオーラルフレイルの中で、特に口腔乾燥・口内炎の症状に対し、『甘露飲』が有効なのではないか?と言う視点に立って、臨床的な有用性を検証しよう…と言う試みを、当院と協力してデータを集めて行く訳です。

 

【甘露飲の処方構成】

地黄(ジオウ):4g、甘草(カンゾウ):2g、石斛(セッコク):2g、

麦門冬(バクモンドウ):2g、茵蔯蒿(インチンコウ):2g、黄芩(オウゴン):2g

枳実(キジツ):2g、枇杷葉(ビワヨウ):2g、天門冬(テンモンドウ):2g

から構成されています。

 

地黄、麦門冬、天門冬は、身体に潤いを与えて、虚熱を取り去り、

黄芩、枇杷葉は、上半身の熱をクールダウンして、

枳実は、理気作用で上焦の熱を下げる補助をします。

石斛は、滋陰の働きで脾胃の虚熱を除き、

茵蔯蒿は、身体に溜まったネバネバ物質を追い出し、湿熱を引き下げます。

甘草は、全ての生薬の効果を、調整・調和を図ります。

総じて、「陰虚内熱」を改善して、口腔内トラブルを改善する効果があります。

 

【甘露飲の漢方的解釈】

胃中喀熱、口気(口臭)、歯齦腫爛(シギンシュラン:現代の歯槽膿漏に相当)、 歯肉膿瘍、口・舌に出来る潰瘍、咽喉腫痛を主治します。胃に湿熱が溜まる事によって起きる慢性炎症を治し、 そこから派生して起きる、歯槽膿漏・口内炎・咽頭炎などに広く使われています。

 

上記の説明を簡単に表現すると、

ヒトのボディーが、「風呂釜」

お風呂の中のお湯が、「体液」

身体を温めるボイラーが、「血流」

と解釈した時に、甘露飲が適応になる身体の状態は、風呂釜に穴が開いて、お湯が漏れ出し、湯が少なくなった時です。

 

湯量が足りないにも拘らず、血流による温めが続いているので、

お風呂の中が「空焚き状態」に傾く訳です。すると、身体は、虚熱と言う熱を抱えた状態になります。この熱は、やがて、上へ上へと集まる傾向に有り、上半身に熱を集めてしまいます。その事で、

●歯肉を腫らしたり

●口内炎が出来たり

●口腔乾燥が起きたりするのです。

 

治法は、まず、

1.まず、風呂釜の穴をふさぎます。これは、全身を統括する気の働きを整える事です。

2.次いで、湯の量を増やす事が重要です。津液(体液)が増える生薬を選択します。

3.最終的に、湯の温度を冷やす為に氷を入れて、ほんの少し火力のつまみを弱にする清熱作用のある生薬を隠し味で加えます。

 

こうする事によって、風呂釜の中は、ホンワカ適温に戻り、潰瘍性病変、乾燥傾向が改善して来るのです。

 

【甘露飲の学会発表について】

そして、2020年6月に、第11回日本口臭学会が執り行われます。ちょうど、来年の学会発表の演題を考えていた時期なので、小太郎漢方の営業マンに、私がデータを取って学会発表をして、小太郎さんが業者ブースで、机を広げて販売促進のプレゼンをするようにしてみたらどうでしょう?と、提案した所、

 

「上司の承認が取れました。」

 

と言う流れになり、早々に、来年の演題が決まってしまいました。

ちょうど、去年の長野の学会で、ニオイ刑事とコラボして、口臭のセカンドオピニオンを学会発表して、今年の学会は、大手日用品メーカーの「花王さん」と連携して業者出展した事に続き、来年は、小太郎漢方と協力して、学会を盛り上げようと考えています。

また、事後レポートを、本ブログでお届けしたいと思います。