ヨーロッパでは、向う20~30年で、ガソリンやディーゼルを使った内燃機関のエンジンから脱却し、電気自動車や水素自動車のように、排出ガスの無い車社会への変換を目指しています。
私も電気自動車に乗り始めて5年以上がたちます。世間でいう、「アーリーアダプター」の立ち位置にあり、人柱のように、良い所も悪い所も理解しながら、上手く使っています。還暦を過ぎましたが、車社会の変遷に関しては、常に目を光らせています。
そんな中、フランスの「シトロエン」と言うメーカーが、こんな取り組みを始めたようです。
何を隠そう、私は子供達が小学生の頃、シトロエンC4ピカソと言う、多人数乗車のミニバンに、6年間乗っていました。国産車の同型と比較しても、殆ど価格帯が変わらないので、乗り潰す感じで購入しました。
そのシトロエンから、「Ami」と言う電気自動車が出てきたわけです。
これは、都市向けの車移動社会に対しての新しい提案になります。
ナント、このAmiは、運転するのに自動車ライセンスが不要のようです。ちょうど、イメージでいえば、ゴルフ場で使う、電動乗用カーの延長線上に有ると言えば、解り易いでしょうか?
ただ、実際の公道を走る訳ですから、万が一の時に強度も必要なので、ゴルフの電動カーに比べて、シッカリとした屋根や骨格、窓、ライト、トランクスペースも確保されています。
実用は2人乗りで、最高速度は時速40km、航続可能距離は70kmなので、郊外に出ると言うよりは、都市の中の拠点を、軽快に走り抜ける使い方を想定しています。
このAmiには、車自体に革新的な技術は、あまり存在していません。電気自動車のポテンシャルとしては物足りない感じです。それでは何が新しいのかと言うと、「その活用の仕方」にこそイノベーションが存在しています。
ヨーロッパの道路事情は、意外と道幅が狭く、石畳の部分があり、キレイな舗装路でない所も存在しています。小さめの車の方が、取り回しが良い感じです。遊園地のゴーカートに免許が要らないと同様の考え方で、フランスでは14歳、他のヨーロッパ地域では16歳から運転できる所が、何ともスゴイです。
また、シトロエンらしさも随所に現れています。時として、変態チックな部分が、自動車マニアの心をくすぐります。私が過去に乗っていたC4ピカソは、エアコン吹き出し口に香水を含ませる筒状の場所があり、エアコンをオンにすると、何とも良いニオイが車内に立ち込めました。その他、車内のルームミラーの他に、後部座席の子供の様子を見るだけの湾曲ミラーが別装備されていたり、フロントウィンドゥのガラス面積が、頭のてっぺんまで広がる広大なものだったり、ざっと思い出すだけでも、10箇所位は国産車には無いような装備が実装されていました。
写真だけの判断にはなりますが、Amiにも、その「変態度」は随所に見受けられます。
https://response.jp/article/img/2020/03/12/332564/1511793.html?from=tpimgより引用
ご覧のように、左右のドアは、ヒンジが前後逆に設置してあります。この設計に、どういう利便性があるのか?考えてみましたが、まだ思いつかない位ファニーです。
その他、フロントドアの下側には、何やら楕円形の縁取りの中に、色違いのガジェットが埋め込まれています。一時期、シトロエンは、隣の車がドアを開けた時にぶつかって傷がつく「ドアパンチ」を防ぐ為に、「エアバンプ」を言う柔らかい素材を埋め込み、ドアを保護していました。この意匠は、その名残の様な気がします。
そもそも、デザインも左右対称で、どちらに走り出すか解らない位、デザインコンシャスです。
フロントバンパーのナンバープレートを見ると、ヨーロッパの規格サイズである「横長デザイン」ではなく、日本車と同じような長方形サイズのものが収まっています。と言う事は、将来的にはアジア圏への進出を視野に入れていることを示唆しているのかもしれません。
恐らく、スマホとも連携して、ネットへのコネクティビティの部分も訴求して来るでしょう。もしかしたら、スマホで呼び出すと、無人で動く自動運転のAmiが、目の前まで来てくれるようになるかもしれません。
実は、このお迎え機能は、実際にもう現実化しており、テスラと言う電気自動車のメーカーが、「スマートサモン」と言う機能を実装し、β版として、アメリカでは実用化されています。
ライドシェアをする時に、わざわざ基地局まで行って、そこで乗り込むのは少々不便です。もし、これが実用化されたら、必要な時に呼び出して、目的地に着いたら、そこで乗り捨てる事が可能になる未来が、もうすぐそこまで来ているのです。
翻って、日本はいつも腰が重いです。関係法規が邪魔をして、新しい取り組みが遅々として進みません。安全策を取る日本の考え方と、少しのリスクやエラーはあっても、運転者自身の自己責任を了解した上で、新しい事に取り組む、欧米人の考え方の違いが出ています。
でも、気が付いた頃には、周回遅れになってしまう事が、過去、何回も繰り返されてきました。技術的な部分では先行したのに、その技術をどの様にしたら上手く使えるか?の所でいつも失敗しています。スマホでも、液晶テレビでも、太陽光パネルでも起きています。何とか、一度や二度の失敗を恐れることなく、自動車の新しい未来に踏み込んでもらいたいと思っています。
ところで、Amiのコストには、数種類の契約の仕方があるようです。
●長期レンタル料:月額19.99ユーロ(約2400円)で、初回コストが、2644ユーロ(約31万円)必要になる場合と、
●スポットシェアリングとして、1日間、毎分0.26ユーロ(約31円)でレンタルできる場合と、
●完全買い取りで、6000ユーロ(約71万円)で、一括購入する事も出来ます。
これが絵空事では無く、フランスでは、Amiの注文を3月30日から開始して、年内には実際に稼働し始めるらしいです。しかも、スペイン、イタリア、ベルギー、ポルトガル、ドイツでも導入すると言われています。
この事から、もしかしたら、将来的に自動車メーカーは、自動車そのものを顧客に対して売らなくても成立するビジネスが、これから、続々と出てくるかもしれません。何百万円もする新車を売るのではなく、移動手段としてのフィールド(仕組み)を買ってもらうのです。こうすれば、莫大な設備投資や開発費も必要なくなりますし、フルモデルチェンジも先送りできます。
モデルチェンジは、車そのものを刷新するのではなく、どの様にしたら、さらに便利に使えるか?
と言う部分に特化して、開発が進んで行くでしょう。ユーザーは、自動車本来が持つ、A地点からB地点への移動手段として、利用した分だけコストを支払うのです。
自動で目の前まで迎えに来てくれて、運転する必要もなく、目的地を音声で命令すれば、安全に送り届けてくれて、到着したらそこで乗り捨てて、また、次のユーザーの元へ自動で向かうような、SF映画に出てくる様な自動車社会が、もうすぐ実現するのです。
何とか長生きをして、その未来を見届けたいものですね。
【新着情報】
そうこうしている内に、ようやく日本でも関係法規が整い、自動運転のレベル3に関して、4月1日に法改正が成されるようです。
是非とも、車マニアをアッと驚かせる自動運転車を、世界に先駆けて日本から発表してもらいたい所です。