ドライマウスを漢方処方で治療する。

 

口臭は、局所的な原因と体質由来の両面で発生してきます。両者の割合は、局所8割:体質2割の症例も有れば、局所3割:体質7割の症例も有り、患者さんごとに、オーダーメイドで治療計画を立案できる力量が求められます。

 

特に、体質が原因の中で、「陰虚」と言う乾燥体質に傾いた時に出てくる口臭について、漢方処方をした結果、口臭の改善と唾液量の増加の両方が得られたケースについて、ご案内していきましょう。(本症例は、匿名の上、患者さんから了解を得た上で、臨床例を紹介しています)

 

だ液分泌増加による、口腔内の湿潤度は、以前のブログでご紹介した、「ムーカス」(ライフ社製)を用いて、その都度測定して記録しました。

 

【測定履歴】

●初診時

硫化水素:389ppb、メチルメルカプタン:818ppbを検出しています。

これは、ファミリーレストランなどで、肩が触れあう位の距離感で臭いが届くレベルです。

 

唾液の分泌を促す漢方薬処方として、「ダイギャク粒加甘露飲」を調剤して、7.5g、分3与、1日3回、毎食前、服用してもらいます。

 

ムーカスは、本体の側面に測定値がデジタル表示されるので、画像に採取して記録します。メモリーカードなどで、日にちと時間のデータ管理ができる仕様だと良いのですが、現時点では、画像に残すしか手立てが無いです。

左上から、右に時系列的に測定履歴が並んでいきます。

 

口臭のデータ(棒グラフ)と、湿潤計(折れ線グラフ)の測定値を並べた結果が、下図になります。

 

口臭の測定値は、グラフの左側の縦軸の目盛りで、湿潤度は右側の縦軸で評価していきます。

グラフを見て解る様に、口臭の棒グラフは、時間軸に従い減少傾向を示し、逆に、湿潤度は徐々に上昇傾向を示しました。

 

治療開始の時の、湿潤度「22.5」と言う値は、殆ど潤い感が無く、渇きによって粘膜がパッツンパッツンに突っ張った感じになり、舌の表面も渇いて「鏡面化」しています。

口腔粘膜は、乾燥傾向が助長すると、上皮が薄くなり、キラキラした感じに変化してきます。

 

乾燥傾向が多いと、味覚異常、嚥下障害、発語困難、義歯不適合などが併発しやすく、日常生活に不自由が出てきます。これを、近年、オーラルフレイルと呼ぶようになっています。

 

服用を始めて1年後には、湿潤度も「27~28」をキープするようになり、実際にお口の中を拝見しても、唾液の分泌が旺盛になっていました。

 

患者さんからは、「食事の味が、良く解る様になり、薄味でも頂けるようになりました」と言う評価を頂き、口腔内環境が、口臭の減少と共に改善して行きました。

 

ここで注目したい点は、第8診目の赤い矢印の部分に、口臭にややリバウンド傾向が出ています。そして、その時の唾液の湿潤度の値も、乾燥傾向を示している所です。やはり、唾液の分泌量低下と、口臭の発生には、一定の相関が隠れているようです。

 

口腔乾燥による口臭の判別点は、以下の通りです。

●裂紋舌…舌の表面に、ひび割れや溝が出てきます。時に、ヒリヒリした痛みを伴う時もあります。

●身体の他の部位にも乾燥傾向が出てきます…ドライアイ、乾燥肌、髪の毛のパサつき、便秘

●のぼせ・火照り…体の中が空焚き状態に傾くので、夕方にかけて熱感が出てきます。

●渇きの熱感は、関節にも及びので…膝・腰痛が出てきます。

 

以上の様な症状が随伴する時は、この陰虚体質を疑います。

 

乾燥体質を改善する食養生は、

生薬名:大棗(たいそう)→なつめ・プルーン

生薬名:山薬(さんやく)→やまいも

こうした食材には、潤い感を回復させます。試してみる価値はあると思います。

 

「だ液って…凄いんだぜ!」

 

と言う部分に関して、歯科医師としてドンドン情報発信をして行こうと考えています。