あまり知られてはいませんが、ヒト由来の生薬も古典の記載の中には散見されます。その中には、現代医学と照らし合わせても、道理の通ったものや眉唾なものまであります。
歯科領域にも生薬として使われていたものもあるので、真贋はさておいて、ここで、ご紹介しておきましょう。
●頭髪
「神農本草経」などに記載が残り、髪の毛は「加美」の名で表記されていました。
その中で、黒く焼いたものは、乱髪霜と言われています。体の中に溜まった、余分な水毒をデトックスする作用(利水)や、止血作用が認められます。使用例としては、破傷風、子供の疳の虫、大小便のしぶり、激しい食あたりなどに効能があると言われています。現代の中医学でも使用例があり、「血余炭」として活用されています。
●爪
指先の角質が硬化して形成される皮膚組織で、主成分はケラチンである。ツメは、「豆米」と表記されています。薬理効果は、利尿、陣痛促進に効果が見込まれ、臨床例は、脚気の予防、淋病対策、胎盤がなかなか降りてこない妊娠症状、鼻血などに用いられました。
●歯
牙歯は、「波」または「岐波」として記載されている。何故か、疲労回復、マラリアなどの駆虫薬、天然痘の治療にも効果があるとされています。
●歯垢
歯垢は、「波加須美」として記載されている。木材をいじっている際に、小枝が刺さった時のとげ傷や、蜂に刺された時の虫毒に対して、患部に歯垢を塗り付けると効果があるとされています。
●唾液
口津唾と言われ、「霊液」や「神水」などの記載もある。日本では、「豆波岐」として表現されている。かすみ目、疲れ目、目やになど、目の諸症状や、炎症性の腫脹を改善、虫刺されの解毒作用があります。
●胎盤
妊娠時に、母体と退治をへその緒をつなぐ組織で、出産と共に、脱落して体外に排出されます。これを後産と呼び、古来より高貴なものとして、食べる文化が世界中で行われていました。特に現代では、胎盤由来エキスとして、「プラセンタ」が抽出され、細胞のターンオーバーを活性化させる事から、シミ・ソバカスに効果が見込まれ、医薬品や化粧品に重用されています。
生薬では、「人胞」「胎衣」と記載され、精神の過緊張の緩和、益気、性欲増進に効果が見込まれています。また、不妊症やてんかんなどの気付けにも用いられています。
【ヒトが人の組織を食らう事】
ただ、現代に至るまで、こうした生薬は、一般化する事はありませんでした。何故なら、「共食い」の概念に当てはまるからです。
以下の動画に、同族同士が、共食いする事の危険性を、まじめに解説しています。
やはり、ヒト由来の生薬は、あまり臨床には使いたくないですね。