口の中の渇きについて…東洋医学的考察

 

口臭治療を進めていくうえで、多くの症例で、患者さんから、口の中の「かわき」を訴える時があります。

 

かわきという漢字は、「渇き」と「乾き」が存在します。

 

実は、東洋医学的には、「口渇」と「口乾」では、大きな違いがあります。

 

 

【口渇】

「口渇」は、津液(身体の中の潤いを司る体液の事、広く細胞内液・細胞外液の事ととらえる)の損傷・損耗が強い場合の事を指します。

例えば、真夏に運動をして、暑くて大量の汗をかき、非常に喉が渇いて、どうしようもなく水分を補給したくなります。これも、広く一時的に発生した「口渇」になります。

 

ただ日常臨床で経験する患者さんの中には、平素から、常に喉が渇いて、渇いて仕方がなく、水分を大量に飲みたがるようであれば、体質的に何かの異常があるものとして、症状として考えていきます。

 

鑑別点は、汗として出ていないのに…口の渇きを強く訴えるか?が、目標になります。

 

こうしたケースの場合、患者さんへの問診事項として、

「普段から、どの位の水を飲みますか?」と、伺ってみます。

「ペットボトルを何本消費しますか?」と、聞いてみると答えやすい様です。

 

実は、1日3食の食事からも、結構な量の水分は摂取しているので、それ以上の水分量を欲しがるというのは、やはり口渇の症状が出ている事を疑います。

 

それでは、どの位の水分量が適量なのか?と言う疑問ですが、性別や体格差もあるので一概には言えませんが、おおよそ、1日2リットルと考えられています。

そのうち、食事から1リットル程度の水分は摂取しているので、残り、1リットルという事になります。つまり、1日で、500mlペットボトルを3本以上、飲みたがる時には、口渇を疑っても良いかもしれません。

 

こうした場合、身体のどこかに、「熱を抱えている場所がある」事を疑います。

臓腑弁証の問診を通じて、どんどん各論に入っていきます。

 

ただ、歯科医師的には、1つだけ注意点があります。それは、「口呼吸」があるのかどうか?を、事前に確認する必要があります。鼻づまり、咬み合わせ、生活習慣などを問診で確認しておく必要があります。

 

そうではないのに、口渇を伴い、特に冷たい飲料水を飲みたがる場合は、熱盛があると解釈します。特に、口腔に近いことから、胃熱傾向を疑います。

 

加えて、その他の随伴症状として、

ドライアイ、乾燥肌、コロコロ便、寝汗、夕方にかけての火照り、膝・腰痛、不眠、寝汗などの症状が伴えば、渇きの体質の「陰虚」の疑いが濃厚になってきます。

 

あとは、高齢者になるにつれて、どうしても唾液分泌量が減少してきます。全身疾患として、糖尿病やシェーグレン症候群も鑑別しなければなりません。

 

【口乾】

一方口乾は、津液(広く体液のこと)の損耗・損傷が、それ程強くない時に現れます。これは、ただ単に唾液が少ない事から、口の中が乾燥していますが、それ程、水を飲みたがらない状態です。

 

私が良く鑑別点として用いる所見は、実は、「唇の乾燥」です。

 

口乾の方は、ただ乾燥症状が出ているだけなので、唇が乾燥して、冬場になるとカサカサして、上皮が剥けている方を見かけます。

 

そして、口乾の方は、往々にして「虚証」(身体がお疲れモードに傾いている傾向)の方が多い傾向にあります。この気が衰えてくると、呼吸が浅くなります。特に、身体の中の津液を全身に散布する役目は、実は「肺」が担っています。

 

口乾の方は、頭の方まで津液を、噴き上げる事が難しくなるので、口渇のように、どこかに熱を抱えていなくても、乾きを覚えてしまうのです。

 

肺の働きは、1回ごとの呼吸と共に、スプレーのように、「気」と「水分」を、全身に散布しているのです。

 

この事から、肺気虚の人は、口乾を訴える方が多いですね。

 

また、ドロドロ血タイプの方は、身体のどこかに血液の滞りが生じます。すると、その部位が「お熱」を抱える事になります。その事によって、口乾を訴える事もあります。

 

その他、睡眠薬・向精神薬・安定剤の副反応として、「抗コリン作用」と言うものがあり、器質的に問題がなくても、口の渇き、乾きを訴える方がいます。問診で、必ず聞かなければならない項目です。

 

いずれにしても、臨床経験から考察すると、口の渇き・乾きから始まる口臭は、ザックリとしたイメージで言うと、全体の半分以上を占めていると思います。

口のかわき…を感じたら、水を飲みたいのか?欲しがらないか?を、自分で感じてみて下さい。