スポーツにおけるドーピングとは、選手やアスリートの競技パフォーマンスを飛躍的に向上させる薬物を指します。特にオリンピックなどの競技では、World Anti-Doping Agency(WADA)が、統括して禁止薬物を指定しています。
競技の基本理念、スポーツマンシップに違反する行為、競技者の摂取後の健康被害、
反社会勢力がスポーツの分野へ蔓延を防止する事を基本にしています。
具体的な禁止薬物は、毎年1月1日にWADAが発表する一覧表で定義され、原則としてその年の12月31日まで有効とされます。
禁止薬物は、以下のような定義があります。
① 常に禁止される物質
② 競技会で禁止される物質
③ 特定競技において禁止される物質の3種類に分類されています。
【禁止されている生薬】
2019年版では、生薬に由来する成分が掲載されています。
① 常に禁止される物質には、ベータ2作用薬としてヒゲナミンが指定され、
② 競技会で禁止される物質には、興奮薬としてエフェドリン、プソイドエフェドリン、ストリキニーネに該当する成分が掲載されています。
特にヒゲナミンは呉茱萸(ごしゅゆ)、細辛(さいしん)、丁子(ちょうじ)、蓮肉(れんにく)、附子(ぶし)、南天実(なんてんじつ)、イボツヅラフジに含有されています。
エフェドリンやプソイドエフェドリンは、麻黄(まおう)に含まれています。
ストリキニーネは、馬銭子(ホミカ)に多く含まれます。
その他、滋養強壮薬に用いられる海狗人(かいくじん)や香水の原料となる麝香(じゃこう)も禁止されています。
この事から、天然の成分の漢方薬だから安全というわけではありません。競技者が風邪っぽい時に安易に服用した漢方薬が原因となり、ドーピング検査で陽性反応が出た例があります。例えば、一般薬(OTC薬)として、普通に薬局さんで売っている「葛根湯」(かっこんとう)という、メジャーな漢方薬にも、麻黄のエフェドリン、プソイドエフェドリンや細辛のヒゲナミンが含有されています。
その他、注意が必要な漢方薬は、
●子供の風邪の引き初めに用いる「麻黄湯」(まおうとう)
●鼻かぜ、アレルギー性鼻炎に用いる「小青竜湯」(しょうせいりゅうとう)
●身体の痛み、腫物の予防に用いる「麻黄附子細辛湯」(まおうぶしさいしんとう)
などは、全て注意が必要になってきます。
そう考えると、一般的な香辛料の中にも、禁止成分が含まれている可能性があり、気軽にカレーライスなども食べる事が出来なくなっていきます。
例えばクローブという香辛料には、ヒゲナミンを含むものがあったり、のど飴には、南天の実が使われたりしているので、トレーナーなどのサポートも含めて、本当に日常生活で注意しなければならない食品があります。
【アスリートに有効な生薬】
それでは、全ての生薬が禁止なのでしょうか?
実は、まだまだ、ドーピングに引っかからない物もありそうです。オリンピックに出場するような選手が、パフォーマンスの高い運動を行う為には、何と言っても、エネルギー源を生み出す「酸素」が必要となります。
酸素が十分に筋肉に供給されないと、エネルギーが足りなくなって、良い運動が持続できなくなります。
特に、酸素が足りないと、持久力を必要とする有酸素運動能力が必要な種目に影響を及ぼします。酸素は赤血球のヘム鉄のヘモグロビンと結びつき筋肉に運ばれます。この事から、血中のヘモグロビンの多い事は、持久力を争う運動においては、健康数値が少し違うだけでも、記録に変化が出るくらい重要な身体の状態です。運動が原因で血中の赤血球数やヘモグロビン濃度が極端に低下する事を「スポーツ貧血」といいます。
つまり、まだWADAの禁止薬物ではない成分で、良質な血液を養い、多くの酸素を筋肉に届ける事が出来れば、まだまだ記録向上が願える可能性がある訳です。
漢方処方には、血液が足りない貧血傾向の方に、良質な血液を養う目的で「補血」の性質を有した生薬があります。
この体質の事を、「血虚」(ケッキョ)と考え、これを養生する取り組みが「補血」になります。
「補血」の効能を持つ生薬は、
●当帰(トウキ)
●川きゅう(センキュウ)
●芍薬(シャクヤク)
●地黄(ジオウ)などが上げられます。
これらは、まだ禁止薬剤には指定されていないので、ドーピングをすり抜けて、使用する事が出来そうです。東洋医学の中にも、取り組む手段は、まだまだありそうです。