石鹸の臭いとアルデヒド

 

沢田研二さんのコンサートに名古屋まで同行した私には、一つの目標がありました。それは、長年、Facebookで親交のあった「電脳空間の友達」と、リアルにお会いする事でした。コロナも沈静化しているタイミングで連絡を取ったら、「是非お会いしましょう」という事で、オフ会をしました。

 

 

以前、世の中に広がるあらゆるニオイを科学する、ニオイ刑事とコラボしたclubhouseのチャンネルで、ゲストスピーカーとしてお招きした、國本晴久(向かって右)さんです。

 

名古屋で、車のボディコーティングを専門に扱うポリッシュガレージ名古屋を経営しています。

 

Clubhouseに登壇して頂いた時に、「車内の気になるニオイは、どうしたら良いの?」と言う質問に対し、國本さんからは、

「車内用芳香剤だと、臭気が強いので、当店では、石鹸の臭いを推奨しています」

と言うアドバイスを頂きました。

 

日本人で、石鹸の臭いに嫌悪感を持つ人は少ないと思います。

 

特に、「牛乳石鹸」の臭いは、子供の頃から親しんだ、ほんのり香るフローラルの臭いは、ヒトの嗅覚に心地よいのです。

 

なぜ、牛乳石鹸の臭いが、いい匂いなのでしょうか?

実は、ここにも香水の歴史と、その含有成分に秘密がありました。 

 

 

【香水とは?】

そもそも香水は、一般的に幾つかの香料を、溶剤となるアルコールに混ぜて、バランスの良い芳香液体に調整する事です。歴史をたどると、既に10世紀ごろから、ヨーロッパを中心に製造がされていたようです。

近代になるにつれ、「合成香料」が開発され、調合の自由度が高まり、同じ臭いを何回でも作れるようになり、商業として量産化が可能になりました。この事により、一部の貴族だけの楽しみから、一般大衆へ需要が拡大していきました。

 

その中でも、エポックメイキングだったのは、有名な1921年のシャネルNo.5の登場でした。

 

女優マリリン・モンローのインタビューで「夜は何を着て寝るの?」と聞かれ、

「シャネルの5番よ」と答えた逸話は、あまりにも有名です。

これ以降、合成香料が主流になっていきます。

 

【香水業界に衝撃を与えたアルデヒド】

シャネルの5番には、アルデヒドと言う成分が入っています。香りそのものは、脂肪臭で、脂っこく、鼻に残るもので、決して良い香りと呼べるものではありません。むしろ不快感さえあるニオイです。背油ギトギトの、ラーメン屋さんの臭いと言えば分かりやすいのではないでしょうか?

そもそも「アルデヒド」とは…

CHO(アルデヒド基)を持つ有機化合物の総称です。飲酒をして、体内でアルコールを分解する時に、ヒトからも出てくる臭い物質はアセトアルデヒドです。また、パラホルムアルデヒドは、歯科領域でも用いられており、神経の治療に応用されています。

 

合成香料の出現によって、従来の心地よい香り同士を混ぜれば、売れ筋の香水が出来るはず…と言う固定観念を、「アルデヒド」は、打破しました。シャネルの5番が人気を集めたのは、あまり良い香りとは言えない、アルデヒドを高濃度で混ぜ合わせたことで、フローラルな臭いが、より一層引き立つ事が分かった点です。アルデヒド臭は、今までの香水にはない、芳醇な深みを持たせ、肉食系の魅惑的な臭いを作り上げたのです。

この「アルデヒド」は、もともとは人体からも発生しているので、身体との親和性もよく、長時間香料を持続される効果も期待でき、一人一人が持っている体臭とも調和し、個性的で官能的な香りに変化する事で、多くのセレブから支持を集めました。

 

こうした理由から、「フローラル・アルデヒド」を混ぜ合わせた牛乳石鹸は、親しみやすいニオイを作り上げていたのです。

 

そして、國本さんは、なんと自作した牛乳石鹼をゴロゴロ入れた「臭い袋」を自作し、施工が終わった顧客に、サービスとして、車内の香りづけにプレゼントしているそうです。

 

 

 

以前にもご案内しましたが、ニオイは、脳内の大脳辺縁系と言う領域で情報処理されます。

そして、大脳辺縁系には、同時に「海馬」と言う部分で、記憶中枢も兼ねているので、「臭い」と「記憶」は、とても近い所で分析するので、マッチングが良いのです。一度嗅いだニオイは、すぐに覚えてしまう特性があります。

 

これを「プルースト効果」と言います。

 

この事から、ニオイのあるものを相手に渡す…と言う行為は、その時の楽しかった会話の内容や、思い出深い情景なども、丸ごと記憶されることにつながり、その臭いを嗅ぐたびに、その時の楽しかった記憶も再び呼び戻される事につながるわけです。

 

商売という視点で考えた場合、顧客に心地良いニオイの情報を渡す事は、顧客に名刺を渡すより、何倍もお客とのつながりを深める、最新のマーケティング手法であるとも言えます。

 

また、名古屋に出向く機会がありましたら、親睦を深めたいと思いました。