口臭治療を15年間も専門にしていると、患者さんから色々なお悩みを受けする時があります。
その中で、最も多い相談は、「お口の中の粘着き」による不快感を訴える方が非常に多いです。
なぜ、何回歯磨きをしても、口の粘着きが取れないのでしょうか?
今回は、その仕組みに関して考察しましょう。
【粘着きの原因…グリコカリックス】
実は、歯肉や口腔粘膜の表面には、菌体外粘性多糖体(グリコカリックス)と言う、ヌルヌルしたバイオフィルムという膜が形成されていいます。
その構造をさらに詳しく見ると、グリコカリックスは、下図に示すように、
●粘膜側の「液層」親水部分と、
●口腔側の「油層」疎水部分の構造を有します。
通常、唾液が潤沢に分泌されている時は、お口の中に潤い感があり、グリコカリックスの液相部分の領域が広い状態になります。
ここで重要なのは、口内環境の変化によって、グリコカリックスの液相と油層の割合が変化する事です。
特に、唾液の分泌が減少すると、口腔細菌は飢餓状態に直面し、細胞表面への親和性を高め、自己防御するために、
下図のように、グリコカリックスの構造を変化させます。
上図のように、外膜の脂質の構成を変化させて、油との親和性を高めるように、疎水性の性質を強化させます。
この油層の割合が増える事で、ヌメヌメ・ネットリとした粘着き感が、強く長く残ってしまうのです。
つまり、口内に長く残る、粘着きの正体は、
●唾液分泌減少による乾燥感と
●粘膜上に存在するグリコカリックスの油層の部分の増大による
ダブルパンチによって発生していたのです。両者はワンペアで発生する点が重要です。
【ヌルヌルを除去するには】
口臭で悩む患者さんは、口臭測定器の測定値が減少し、ヒト嗅覚で分からない認知閾値以下に収まっても、なかなか改善を実感できない方がいます。
何故でしょうか?
それは、口の中の「乾き」「粘着き」など、口内違和感の方が、まだ色濃く残っているからです。
「ニオイの発生」と「口内違和感」が、ガッチリ紐づいているので、ニオイが減少しただけでは、納得できないのです。
口内の違和感が残っている限り、「まだ、臭いがある気がする」と訴えてきます。
患者さんは、自分の臭いで口臭を自覚するよりも、圧倒的に口内違和感の方で、
「やっぱり、ニオイは出ている」
と自覚する傾向があるのです。
本当に治った…と、実感してもらうためには、口内の違和感も含めて、スッキリ・サッパリを再現しないと、
本当の意味で、「口臭が治った」という所まで、たどり着く事は出来ないのです。
それでは、この油層と液層を、まるごと除去する方法は無いのでしょうか?
実は、生薬の成分で可能になるんです。
【油層を剥がすリモネン】
生薬には、陳皮と言うものがあります。何のことは無い、温州ミカンの皮です。
このミカンの皮には、精油の「リモネン」と言う成分が含有されています。
身近な所では、「オレンジオイル」の商品名で、油洗浄剤としても販売されています。自然由来なので、身体に優しいのです。
このリモネンが、油との親和性の高さにより、油分を分解してくれるのです。
加えて、柑橘系の爽やかな感じも口内に広がるので、一石二鳥です。
油層は、陳皮のリモネンで、分解除去可能です。
【液層を剥がすタンニン】
生薬には、桂皮と言うものがあります。簡単に言えば、ニッキ(シナモン)の事です。
このシナモンには、精油の「タンニン」と言う成分が含まれています。
身近な所では、「シナモンスティック」などで入手が可能です。
実は、このタンニンが、ムチンと良く結合して、液層を剥がすのです。
タンニンは、ワインや柿にも含有されています。
ワインのテイスティングをして、吐き出した時に、糸を引くような感じで出てきたり、オリの様な塊で出てきたりしたら、
ムチンが剥がれた証拠です。
渋柿を食べた時に、妙に口の中が、ギシギシ・ザラザラした感じになるのも、ムチンが除去された感じです。
私が、何故、患者さんに漢方薬を勧めるのか?
と言うと、全身的には、体質改善を目的としていますが、局所的には、口内の粘着き除去も視野に入れて処方しているのです。
リモネンを含有する陳皮と、タンニンを含有する桂皮が、両方含まれている漢方製剤は、当院にご相談ください。
お体に合ったオリジナル処方を考案していきます。