近年、COPD(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)の患者さんが、当院でも増加傾向です。この病気が引き金となって、死亡するケースは増加しているにもかかわらず、初期の場合は自覚症状が殆ど無いので、世間への認知度は低い傾向にあります。
COPDは、今すぐ重病になるわけではないので、軽く見られがちです。しかし、徐々に悪化し、長い時間をかけて進行していきます。
臨床的には、全身の酸素不足による苦痛は、水で溺れて窒息していくように、アップアップの状態になります。呼吸器の苦しみは、モルヒネのような強めの鎮痛剤でも、あまり効果が見込めません。
そして「呼吸」という、生命を維持する上で、根源的な働きが低下すると、ドミノ倒しのように、全身の機能が低下していきます。全身への酸素が行き渡らなくなるので、多臓器不全に陥ってしまうのです。
WHOの報告では、世界におけるCOPD(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)の死因は第4位です。近年、我が国でも、8~10位のあたりをキープしています。
COPD患者の90%は喫煙の履歴があります。また喫煙者の20%程度が、COPDを発症しています。ただ、意外と見過ごされがちですが、「虫歯菌」や「歯周病菌」も、COPDの発症のリスクを上昇させています。
【COPDと口臭】
COPDは、肺の中の呼吸を司る「肺胞」の機能が衰える疾患です。いったん、機能が低下した肺胞は、元に戻る事はありません。残った肺の機能を維持していくしかないのです。当院が経験した、COPD由来の口臭を紹介します。一般的な歯科的な口臭との鑑別点も列記しておきます。
●一般的な口臭
口内の衛生状態が悪いと、「口臭発生菌」が優位な口内環境に傾きます。菌は、増える過程で「代謝産物」を生み出します。残りカスを吐き出しながら、増殖している訳です。
その残りカスの一つに、独特な臭気として「硫化水素」のニオイがあります。温泉臭・硫黄臭の様なニオイです。一度嗅いだら忘れないニオイです。口臭が専門になって15年、5000人以上の患者さんの臭気を嗅ぎ分けてきた経験から、
口臭発生菌のニオイは、一発で、判定が出来ます。
歯科的な口臭は、図の様な症例です。
こうした患者さんは、主に口内に原因があるので、ブラッシング指導、歯垢・歯石除去と除菌療法をすれば、口臭発生菌の数が減少し、口臭のレベルも、早期に減少傾向を示します。
●COPD由来の口臭
COPDは、気管支炎なども併発している事から、「炎症性口臭」が出てきやすいです。炎症由来の口臭は、主に、メチルメルカプタンと言う臭気が高値を示す事が多いです。本ガスのニオイは、炎症のニオイなので、「血生臭い」のような臭気がします。加えて、炎症によって膿を抱えると、「海苔の佃煮臭」や「金魚鉢臭」の様なニオイも併発してきます。
以下の様な症例です。
ココで重要な点は、歯周病で出てくる口臭も、炎症による臭気ですから、メチルメルカプタンの値は上昇してきます。
その為に、「歯周病検査」が重要な鑑別点につながっていきます。
もし、歯周ポケットの深さ、プロービングをした時の出血傾向、歯の動揺度が全く問題なく、歯周病を疑う所見が殆ど無い場合は、COPDを疑います。
ただ、口内に充満しているニオイを、シリンジで吸い取るだけでは、COPDの発見は難しいです。COPD由来の口臭は、「ハァー」と吐き出す呼気の中に含まれているからです。
そこで、ただ口から臭いを吸い取るだけではなく、風船のような専用の臭気袋(サンプリングバッグ)を、「フゥー」と膨らませてもらって、そこから臭いを採取して、口臭測定機にかけていきます。
こうする事で、肺や喉を伝わった呼気が採取できるので、COPD由来の口臭を発見する事が出来るようになります。
上記の患者さんは、呼吸器内科へ紹介状を書き、発見が早かったので、現在でも元気に日常生活を過ごしています。
最近、痰が絡んだり、喘息のような咳が出たり、息苦しい感じがしたりする時は、COPDの可能性があります。加えて、何か普段と違うニオイが、呼気や下着についていたら、それは、身体から発せられる、「大病の予兆」なのかもしれません。
普段から、ニオイの変化に敏感になっておくことは、セルフメディケーションとして、とても重要だと思っています。