伊勢うどんとは

 

お盆休みの某日、カミさんと二人で、伊勢神宮参拝をしてきました。

自家用車で、東名高速浜松インターを降りて、伊良子岬まで一般道を進み、行きも帰りも、「伊勢湾フェリー」で、三重県側の鳥羽まで、一気にショートカットです。

 

 

伊勢神宮周囲には、参道の前に「おかげ横丁」と言う、土産物、飲食店が軒を並べます。

 

 

ちょうど、お腹も空いていたので、予備知識無く、「伊勢うどん」を標榜しているお店に入りました。しばし待つ事、出されたうどんは、太麺に味噌ダレとコネギが乗っかっている、素うどんが提供されました。

 

 

うどんと言ったら、讃岐うどんが好みです。

さらに上を行く、アゴ破壊うどんの異名を持つ、「高田のうどん」も、大好きです。茹でた後、冷水で締めた高田のうどんは、歯ごたえで言ったら、トップクラスの腰があります。

これに対し、伊勢うどんは、正に、その対極にあるようなうどんで、何とも腰が無く、フニャフニャうどんでした。

「なんか、きりたんぽを食べているみたい」と、カミさんは言いだし、途中で食べるのを諦め、

「コレいらないから上げる」…と言う事で、1.5食分、食べる事になってしまいました。

 

【そもそも歯ごたえとは?】

日常の食生活で、料理を美味しく味わう時、その食材の味覚を得て、「美味しい」と感じる事はもちろんですが、実は、「歯応え」でも、「うまい」を感じる事が多いです。

もし、お漬物のたくあんが、お豆腐のようにフニャフニャだったら、あまり美味しくないでしょう。ヒトを含めた動物は、食らいつく・食いちぎる・かぶりつく事で、食欲を満たしている部分があります。いつも、赤ちゃんの様な離乳食や流動食では、食べた気がしません。

実は、歯応え感覚は、食材の硬さを受け止める歯の感覚と、物を咬むための咀嚼筋の感覚受容で成り立っています。

 

 

ただ、歯そのものは、歯髄(神経)で、熱感を感じる事は出来ますが、硬組織なので、歯応えを感じる事は出来ません。歯応え感覚は、歯の実質で感じるのではなく、歯を支えている歯周組織の中でも、歯の周りをくるんでいる0.5mm程度の厚みの「歯根膜」と言う圧受容器で感じています。

 

加えて、物を咬む筋肉の固さ調節は、下顎を動かす筋肉の中にある筋紡錘と言うセンサーが担っています。一般的に筋肉は、過去に動かした経験から、例えばこの階段は、「この位、足を上げて歩けば登れる」と言う記憶を頼りに、無意識に力加減と動きを調整しています。

食材が咀嚼によって歯にぶつかると、歯根膜の圧受容器のセンサーが知覚し、

「あぁ、この位の固さの物は、この力で咬めば、食べる事が出来るよ」と、脳が命令を出し、咀嚼筋にかかる力を調整します。誰も、お豆腐を食べる時に、するめイカを食べる時の力で咬まないのは、この働きが微調整してくれているのです。

 

 

うどんのコシも、過去に食べた、自分が美味しいと記憶しているうどんの固さで、咀嚼筋の動きを制御して、最初のひと咬みをします。今回の「伊勢うどん」は、柔らか麺なので、ファーストコンタクトで、スカを食らいました。

「何じゃこりゃ?」

と言う食感です。

しかもこの歯根膜は、自動車のサスペンションと同じように、スプリングとダンパーの役目も持っています。水飴の様な、ジワーっと広がる粘性と、ビヨンビヨンしたバネ特性の両方の機能を持ち合わせているのです。

 

咬んだ力を、骨に伝えないように、その粘弾特性で受け止めて、緩圧しているのです。

 

その配列は、直列に並ぶマックスウェル型と、並列に並ぶフォーグト型の2種類があるのですが、歯根膜の場合は、車のサスペンションと同じように、直列に並ぶ方が採用されています。

 

 

今回の旅行を通じて、「伊勢うどん」の固さの記憶は、しっかりとメモリーされました。次に食べる時があったら、ちゃんと硬さ調節をして、モグモグ食べたいと考えています。