口臭の発生は、「口内」と「体質」から発生していると、繰り返し述べてきました。
口臭が専門になって15年、新しい解釈も出てきているので、今一度、整理する目的で、最新版として、まとめておきたいと思います。
【口内口臭とは】
口の中が原因で、発生してくる口臭には、実は、3つのガスの成分が存在します。それは、日本口臭学会の「治療ガイドライン」にも記載されているので、エビデンスとして認められた口臭です。主に、硫化水素・メチルメルカプタン・ジメチルサルファイドになります。
口内口臭は、機械で測定できる口臭です。メタボの血圧や血糖値・コレステロール値と同じように、数値の変化で、改善傾向を評価できる口臭です。
① 硫化水素
言わずと知れた、患者さんから発生してくる口臭の筆頭です。ニオイを言語化すると、温泉臭や硫黄臭になりますが、濃度が薄くなると、便臭のようなニオイにも変化します。
飲食物の、システインと言う必須アミノ酸が、口内に入ってくると、口腔細菌がアミノ酸の部分を食べて、引っこ抜いていきます。これを脱アミノ反応と表現します。
残りの部分が、揮発性の高い硫黄臭に変化していくのです。
口臭の発生段階では、まず、この硫化水素だけがジワジワ出てきます。以下に臨床例を上げてみましょう。(データの開示は、患者さんから了解を得ています)
まずは、口臭の初期の段階では、「硫化水素」が単独で出てしまう方がいます。これは、口内の中で、ニオイを作る悪玉菌が優位に傾いた事で、臭気を作りやすい口内環境になった時に出てきます。
ヒト嗅覚で分かり始める認知閾値「112ppb」のところ、10倍以上の「1260ppb」を計測しているので、やや強めの口臭です。
イメージとしては、喫茶店のテーブルをはさんだ相手にも、ニオイが届くレベルです。
ただ、口内の口臭発生菌の増殖が主な原因なので、歯のクリーニングを実施し、除菌療法を施せば、早期に減少傾向を示します。初期の段階で、やや強めの口臭でも、比較的結果が出しやすい症例です。
② メチルメルカプタン
メチルメルカプタンも硫化水素と同様に、飲食物中に含まれる、メチオニンが変化して発生して、発生します。古くなった玉ねぎ臭、都市ガス臭、下水臭のようなニオイがします。
実は、メチルメルカプタンの発生は、硫化水素に起因している事が多いです。口内細菌は、増殖する過程で、「炎症誘発物資」の毒素を吐き出します。この毒素が、歯周ポケットに入り込むと、そこで炎症を起こし、いわゆる歯周病を誘発します。
このメチルメルカプタンは、炎症が起きた時にも出てくることが多いので、時として、「血生臭い」臭気を放つときがあります。
ここで重要な点は、硫化水素のみが発生している時に、それを放置すると、歯周組織に炎症が起きて、やや遅れて、メチルメルカプタンも同時発生してくる所です。
口臭発生の第2段階です。以下のような症例です。
温泉臭に玉ねぎ臭が合わさってくるので、一度嗅ぐと、記憶に残るくらい強い臭気です。
メチルメルカプタンは、粘膜刺激を有しているので、周りの方が目に曝露されると、本当に目がショボショボすると訴える方がいます。
その他、口臭を抱えている本人も、肺や喉の粘膜に刺激を与えるので、喉の炎症に悩む…と言う方もいます。
臨床的には、やや重症の部類に入り、除菌療法に加えて、歯周病の治療も並行して施術しないと、根治に向かいません。本人の意識改革も必要な症例です。
③ ジメチルサルファイド
本ガスは、口内に原因が無く、腸内で発生した腐敗臭が、巡り巡って、呼気に戻ってくる臭気と言われています。
魚の臓物臭、金魚鉢臭のような、青臭い臭気がします。
腸内の菌バランスが悪い方なので、下痢便秘に加え、吹き出物、便臭がクサい、オナラの回数が多いなどの随伴症状を伴います。
前述した、硫化水素とメチルメルカプタンに付随して発生する事も多く、本人よりも、家族からのススメで、来院する方もおります。
臨床的は、かなり重症の症例です。全ての臭気物質を、認知閾値以下まで下げないと、治った…と、実感できないので、腸内環境を良くする取り組みも必要です。当院では、口臭の改善を目的として、漢方由来の発酵性食品の摂取をすすめています。
厄介な点は、ジメチルサルファイドは、口内のニオイにとどまらず、汗からも体臭として出てしまう所です。
上記症例位の口臭の患者さんは、恐らく、社会生活にも影響が出ていると思います。例えば、営業成績の悪化、疎遠になる対人関係、家庭内不和、婚活・就活をしても、成果が出ない。などです。
「おかげで良くなったよ!」の一言を得るために、日夜精進しています。
④ 特異な症例:単独で、メチルメルカプタンだけが上昇するケース
5000人の患者さんを拝見していると、あまりお目にかかれない症例にも出会います。例えば、以下の症例の場合、メチルメルカプタンだけが、単独で上昇してくるケースです。
日常臨床では、前述したように、硫化水素とペアになって出てくることが多いです。この症例にように、単独でメチルメルカプタンだけの臭気を嗅ぐことはレアケースなので、患者さんに「ハ~」と、息を吹きかけてもらい、私の嗅覚による官能検査を行ってみると、
なるほど、「玉ねぎ臭の様などぶクサい」臭気を感じます。
ただ、口内を診察しても、100点満点を上げても良いくらい、口腔衛生状態は良好です。歯並びもキレイで、歯周ポケットにも炎症は起きていません。
臭気の発生源が別にある
と、にらんで問診をした所、喫煙習慣がある事が分かり、年中、喉がいがらっぽく、息切れがする…と言う事なので、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を疑いました。
私は、歯科医師なので、COPDの直接の治療は出来ません。ただ、自分の専門分野である「口臭」を改善する為であれば、漢方処方が出来ます。結果的に、体質改善が進み、口臭の改善と共に、肺のコンディションも良くなっても、関係法規に触れる事はありません。
この患者さんの場合は、漢方薬2か月の服用で、口臭の改善傾向を示しました。ただ、患者さん自身が、COPDの改善を強く望んだので、その後、呼吸器内科と連携を図り、より積極的な治療に移行していきました。
普段と違う口臭に気づくことで、重大な疾患が見つかる事もあるのです。
⑤ 特異な症例:単独で、ジメチルサルファイドだけが上昇するケース
こちらに関しては、年間、数例の割合で発生する口臭です。
ジメチルサルファイドだけが検出する症例です。
認知閾値「8ppb」のところ、「229ppb」を計測していますので、結構強めに臭気が出ています。私が官能検査をしてみても、魚の臓物臭のようなニオイを感じました。
実は、こうした症例には、一定の傾向があります。それは、若年者に多く発症してしまうのです。幼稚園生から高校生くらいの年代に多い傾向があります。親御さんが心配して、当院を来院する事が多いです。
親御さんは、どこに行っても、あまり真剣に掛け合ってくれない、サプリやうがい薬を使っても改善しない、もうどうしたらよいか?見当もつかない…と、相談に来ることが多いです。
もちろん、硫化水素とメチルメルカプタンを検出していないので、口内環境は問題ないです。でも、ご家族は、お口の中は、何でもできる事はやってみよう…と言う事で、必要以上に歯磨きをしてしまい、歯の付け根が歯ブラシによって削れてしまい、楔状欠損になっています。口内に原因がないので、余り執拗にゴシゴシ磨かないように指導しました。
これから、進学、就職、結婚などを控え、とても心配になって、当院に来院しました。
まず、お子さんの食生活を伺うと、野菜はあまり食べない、油っこい食事が好き、スナック菓子、ジャンクフード、コンビニスイーツを好むなどの情報を得ました。
頭ごなしに否定すると、ストレスも増えるので、
「とりあえず、ニオイに関係してそうな食材を、全て半分に減らしてみましょう」と言う所から始めてみました。
加えて、口内の除菌などは必要ないので、一般的な歯科的な治療は控え、その代わり、漢方由来の発酵性食品の摂取をお願いし、取り組んでみた所、1か月で、減少傾向を示し、親御さんが、大変喜ばれました。
【まとめ】
口内口臭は、「定性化」「定量化」が出来るのが利点です。測定画面のビジュアルで、ビフォーアフターが確認できるので、改善傾向を把握しやすいです。
3大ガスの出方で、微妙に治療方針も変わってきます。この辺のサジ加減を立案できるかどうかが、臨床家として求められる所になります。