加熱香気と生薬について

 

食品を加熱すると、糖とアミノ酸、タンパク質などが科学反応を起こして、香ばしい、食欲をそそる、ヒトの嗅覚にとって好ましいニオイが出てきます。

この反応は、メイラード反応として知られており、クロワッサンを焼いた時のパンの香りをイメージすると分かりやすいです。食品の香気生成は、焼く、炒める、煮る等、加熱により構成成分が反応して、「ピラジン類」や「フラン類」や「ラクトン類」などの香気成分が生成してきます。

ステーキ肉を焼いている時も、香ばしい風味が出てきます。このミートフレーバーとして出てくるピラジン類が、長く口内残ることから、この味覚が「こく味」を作り出していると考えられています。

 

【生薬とピラジン】

実は、ピラジン化合物は、生薬の「川芎」(せんきゅう)の有効成分にもみられます。

効能として、抗炎症作用、抗血小板・抗血栓作用を持ちます。

その他、日常の食品の中では、「納豆」の主要香気成分にも含まれています。納豆と川芎は、同じ効能が見込めるのです。その他の効能として、鎮痙(平滑筋抑制)作用、強心効果も報告されています。

ここで面白いのは、このジメチルピラジンには、動物の親子の認識に関係するフェロモンの識別の役に立っているところです。このニオイ成分は、動物の嗅覚システムである鋤鼻器(ジョビキ)に存在するプリン受容体(Gタンパク質)を介して、ごく微量でも認識されます。

 

●鋤鼻器(じょびき)とは、両生類、爬虫類、哺乳類が持つ、フェロモン受容に特化した嗅覚器官です。ニオイを感じる嗅上皮(いわゆる鼻の粘膜)とは別に独立している。 通常、鼻腔の先端にあるが、種によって形態が多様である。ヒトにおいては、退化したとされるが、一部の研究では、わずかに残遺した形で、その機能が残っている…と報告しているものもある。

 

恋人同士が、焼肉屋さんに行きたくなる…と言う衝動も、焼き肉から発するピラジンにより、フェロモンが刺激を受けているのかもしれませんね。

 

その他、お線香の材料である「沈香」(ちんこう)にもピラジンは多く含有します。沈香は生薬としても用いられます。滋養強壮、精神鎮静などの効果があります。奇応丸(商品名:樋屋奇応丸)は、子供の疳(かん)の虫に処方されます。

沈香(お香)を焚くと、気持ちが鎮まるので、お仏壇やお葬式の時に用いられるのです。その他、紹興酒(老酒)にも配合されています。

 

実は、この加熱香気は、口臭にも関係しています。

 

例えば口内が、実熱・虚熱を含めて、常に、熱化してカッカッしている体質の方がいます。こうした方は、口臭の臭いも沸き立ちやすい傾向にあり、食材臭も長く残ると思います。

 

地球においても、火山活動が活発で、地熱が高まり、温泉が出るような熱化地域では、硫化水素などの温泉臭が出てきますし、ヒトの口内からも、熱化した所からは、同じ臭気が出てくるところに、整合性がある所が面白いです。