口臭治療が専門になって15年、5000人の方の口臭をかぎ分けてきました。
実は、嗅覚には順応性があり、ニオイの強い臭気を嗅いでしまうと、正常に戻るまで、少々時間がかかる傾向にあります。
ただ、臨床的には、できれば瞬時に回復させたいところです。今回は、嗅覚のリセット法に関して考察してみましょう。
例えば、視覚や聴覚は、「大脳新皮質」という領域で分析します。ここは、非常に高性能なCPUを有し、入ってきた情報に対し、瞬時に答えを出せます。
青信号を見れば「進め」、踏切の警笛を聞けば「止まれ」
すぐに、良いか悪いか、正しいか間違っているか?判断できます。
ただ嗅覚は、「好きか・嫌いか」「心地よいか・不快か」で判断してしまうところに特徴があります。ここが、他の感覚と異なる評価をしてしまう特性があります。
このために、繰り返しの刺激に対し、正しい判断がしづらくなってしまうのです。
日常臨床においては、常に嗅覚を一定のレベルに保っておくために、嗅覚のリセットが必要になってきます。
【嗅覚のリセット法】
自分にとって、「心地よい」と感じるものを1分間ほど嗅いでみる。例えば、洗い立てのハンカチを鼻に当て、ゆっくり深呼吸します。
私の場合は、ほとんどの場合、これで嗅覚の閾値はリセットされます。
また、メディア取材の時などは、少しカッコつけなければならないので、活性炭入りの防塵カップを鼻に当てて、嗅覚を回復するようにしています。
もう少し簡便にリセットする方法は、私の場合は、牛乳石鹸を子袋に入れて、ほのかに石鹸の香りを嗅いで、嗅覚の回復に利用しています。いろいろ試した中では、石鹸の香りが、一番相性が良いとおみます。その他に、コーヒー豆も効果的なのですが、汎用性がないので、あまり用いません。
あくまでも、自分にとって「心地よいニオイ」である…という点が重要です。
嗅覚の感受性が保たれると、2種類の臭気を嗅ぎ分ける事も出来るようになります。強いニオイのA検体と、僅かなニオイのB検体が混在する場合、ニオイの認識は、通常は、強い方のにおいが優先され、それに隠れたB検体を認識することは難しいです。
ただ、嗅覚が絶好調の時は、微弱なB検体も嗅ぎ分ける事が出来るようになります。
コツは、強い臭気のA検体を認識したら、一度、嗅覚をリセットします。その上で、A検体のニオイはもうわかったので、頭の中からその臭いを削除し、その他の臭いは無いか?意識を集中するのです。すると、ほのかに香るB検体のニオイを嗅ぎ分ける事が出来るようになります。
この作業が出来るようになるためには、過去にどれだけ多くのニオイを嗅いだか?ニオイのデーターベース量が必要になります。その母数が少ないと、B検体にたどり着く事は出来ません。
そんな訳で、日常生活で目に触れるものは、まずは集中してニオイを嗅いでみて、「ニオイの記憶」の箱の中に、その情報を残すようにしています。