第15回、日本口臭学会の演題は、
『熱化体質から発生する焦げ臭い口臭に対し、「桂枝五物湯」の漢方処方が著効した症例について』
になりました。
口臭測定器で、定性化・定量化できる臭気には、硫化水素・メチルメルカプタン・ジメチルサルファイドなどの、揮発性硫黄化ガス(VSC)があります。ただそれだけは不十分で、、日常臨床における、嗅覚による官能検査では、それ以外の臭気を感じる時があります。
今回は、焦げ臭いニオイがする口臭の患者に対し、「桂枝五物湯」が著効した症例の報告になります。
実は、東洋医学における「陰陽五行説」にも、ニオイの情報があります。
臓腑の肝・心・脾・肺・腎には、「五香」の分類で、それぞれ、
「この臓腑に負担をかけると、こういうニオイが出てきますよ」
と、先人は教えてくれています。
●肝→あぶらくさい
これは、恐らく、脂肪肝により、血流に脂肪酸が溶け出した時の、体臭や口臭を指しているのでしょう。
●心→焦げ臭い
今回の学会発表は、ここにフォーカスしました。心に負担をかけると、身体が熱化します。そのカッカッした熱量を、焦げ臭いと、感じたのでしょう。
●脾→かんばしい
脾は、胃と表裏関係にあり、消火活動全般を指します。そこに負担をかけると言う事は、恐らく糖尿病による「アセトン臭」の事を表現しているものと思われます。
●肺→生臭い
肺は、大腸と表裏関係にあり、そこに負担をかけて出てくるのは、腸内臭由来のジメチルサルファイドによるニオイを想定していると考えます。
●腎→腐れクサい
これは、腎臓病になると、血流にアミン体が溶け出し、「魚臭症」が出てくる事をにらんでいます。
口臭発生は、「局所」と「全体」の両方が関与している…と言う捉え方が重要だと思っています。
結果としては、初診時、硫化水素が411ppb検出していましたが、3診目で、切れ味良く減少し、その後、若干の上下動を繰り返しながら、安定化に向かいました。
漢方薬だからと言って、効果が出るまでに時間がかかる…と言う訳でもありません。上記の症例の場合、処方後2週間で、減少傾向が出てきました。
漢方処方が、ドンピシャ当てはまるか?は、最初の見立ての「体質」の把握が、超重要になってきます。
特に、身体に「熱」を抱える体質に有効ですが、実は、3タイプが考えられます。この違いを見定めながら処方するのが重要です。
【熱を抱えやすい体質:3選】
以前のブログでも紹介しましたが、身体の仕組みを、以下のように考えると分かりやすいです。
●身体のボディが、お風呂の風呂釜
●お風呂の中には湯をためます。これが、体液に相当します
●下から血流が流れて、ボイラーのように、お風呂を温めます。
この全体のシステムの中で、
●ツマミが壊れてないか、湯船に穴は開いていないか?など、統合管理するのが「気」
●ボイラーの役目が、「血」
●お風呂のお湯が、「水」に該当します。
漢方における体質は、この全体の仕組みの中で、水が増えたり減ったり、火力が強だったり弱だったり、給湯システムが、正しく動いているか壊れているか?によって、さまざまな体質に変化していきます。
その中で、身体に熱を抱えやすい体質は、以下の3つになります。
【カッカッ熱化タイプ】
これは、火力のつまみが「強」に傾き、お風呂が沸騰状態になっている体質です。燃え盛っているので、身体の随所に「赤い」変化が現れます。随伴症状としては、目赤・赤ら顔・高血圧・怒りっぽい・関節炎・痔核などを伴います。
【カラカラ乾燥タイプ】
これは、火力は程よいですが、気が緩む事で、お風呂に穴が開き、湯が漏れてお風呂の中が、「空焚き状態」になって、熱を抱えるタイプです。身体の中が乾燥してくるので、渇きとシワがキーワードになります。随伴症状としては、口渇・ドライアイ・舌痛症・乾燥肌・コロコロ便・膝腰痛・不眠・空咳・寝汗・午後になって火照りなどを伴います。
【ネバネバ湿化タイプ】
こちらも、火力は程よいですが、お湯の中に痰と言う「湯垢」が溜まり、湯に「とろみ」が増す事で、保温性が上がり、なかなか冷めない体質です。身体の中が、ネバネバ・ベタベタしてくるので、本来ツルツル・スベスベしていなければならない所に、滞りが生じてきます。随伴症状としては、喉の詰まり・胃もたれ・口の粘着き・倦怠感・帯下・痰がらみ・梅雨時に体調悪化などを伴います。
この中で、桂枝五物湯は、「カッカッ熱化タイプ」に良く効きます。構成生薬を見ると、桔梗が排膿消腫、黄芩が清熱燥湿、茯苓が利水消腫、桂皮が解表、地黄が涼血止血に作用するバランスの良い配合になっています。
原因が何だか分からない口臭の場合、体質由来の場合があるので、漢方処方にチャレンジしてみるのも良いでしょう。